2010年 06月 15日
RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語(’10)
提供曲で映画テーマ曲は、最近「時をかける少女」のいきものがかり版は聞きましたが、本人の歌、と言えば、私はDVDでの「天国の本屋~恋火」('04)の「永遠が見える日」が最新、スクリーンでは、「波の数だけ抱きしめて」('91)で何曲か挿入歌で流れましたが、
思えばテーマ曲では、「魔女の宅急便」('89)の「やさしさに包まれたなら」に遡るかと。今回の「ダンスのように抱き寄せたい」はまだ聞いてませんでしたが、どうせなら直接劇場で、と、あえてチェックしませんでした。
この作品は錦織監督の故郷舞台の島根3部作の3作目、とのことで、余り島根の素朴風味とユーミン、という連想はつかなかったですが、「白い船」を見た時、たまたま子供時代「海を見ていた午後」の「ドルフィン」絡みの海への憧憬ロマン感覚を思い出して、触れてたりしたのでした。
「白い船」は、沖を通る大きな船への子供達の憧れ、その夢を叶える周囲の大人達、という何とも究極の素朴さ、題材は実話にしても、現代の優しいお伽噺的な、と思ったのですが、今回の「RAILWAYS・・」も、実話ベースのようですが、そういう意味では大人の夢の実現、という牧歌的テイストも。
主演中井貴一は、私は主演作ではドラマ「風のガーデン」以来で、「風の・・」では、自らの死期を悟り、故郷の北海道に戻って父、娘と和解、時を過ごす、という主人公で、今回は、重病の老いた母の元へ、というきっかけもあって、故郷へ、という流れでしたが、
「風の・・」での、自分の不倫沙汰から色々波乱、家庭の破綻の過去あって、ややプレイボーイ風な医師、よりは、今回も大手会社の管理職、というエリート感は同じでも、家庭人としては、妻(高島礼子)や娘(本仮屋ユイカ)とそれなりの心の距離・自身の惑いはあっても、穏当に家庭を営んでいる、という役柄の方がフィット、という感でした。
6/16追記:序盤、故郷を離れたがらない病の母、会社の同僚の不慮の事故死、を転機に、エリート人生をリセット、に傾く、中年主人公筒井個人の心情は伝わってきたのですが、
その実行で、夫だけが職故郷に帰り、という別居状態になるし、東京~島根の距離、1からの運転手職で、経済問題とか、家庭の一大事、その重大決定に、妻由紀子は全く蚊帳の外、事後承諾のような形で、というのは、どうも不自然感が。
その決意には、妻が自分のハーブティーの店を漕ぎ出した所、娘も大学生で就職活動の時期、それぞれが自立気味、また、電車会社の面接で答えてたように、家のローンは早期の退職金で賄えそうで、というような背景もあるかもしれないですが、
それにしても、自分の意志を認められないなら、別れても、という覚悟で、という程の冷めた関係、とも思えず、そういう摩擦の過程は割愛したのかもしれませんが、別居状態でも、とりあえず新たな運転手職に生き生き取り組む夫を見守る姿は、ややクールにも、包容力にも思えたり。
娘倖は大学の後半で、そう授業もないのか?祖母(奈良岡朋子)の世話をしながら、鳥取にいつき、そういう家族分散のギャップを、補うかのような印象はしたのですが。
まあ少しそういう違和感もあったのですが、メイン舞台の、海岸沿いや田園風景の中を走る小さな車両。ルーツ的に愛着あった鉄道、という新たな居場所で、いくらローカル線でも、電車の到着時間等、折に合理的な制約との摩擦もありつつ、乗客の手助けしたりしながら、人間的に大らかに、働く姿には、好感持てました。
ちょっと印象的だったのは、幼い少年が無人の運転席に入り込み、電車を動かしてしまい、責任問題になるのですが、それが丁度、筒井が、車両間の線路に、乗客の落し物を取りに下りて、上がってきた直後だった、というシーン。
あえて間一髪のタイミング、にしたのか?たまたまか、判りませんが、どんな平和な場所にも現実的に起こり得る不慮の事故。でも、そういう悲劇にはしないのが、この作風の穏和な所、とも。
そういう筒井の芯には、病身の母の元に、という1人息子としての心情的充足感もあってこそ、とも思えて、今元気ではありますが、年取った母が近くにいる我が身にして思えば、たとえこの主人公のように、帰る故郷はなくとも、心の中に、そういう場は作れる、とか、
また丁度、英検後のやや不完全燃焼気味な脱力感の中、見ただけに、好きな事に、諦めさえしなければ、いつからでも仕切り直しは出来る、というような、希望というか癒しというか、じんわり感じられたのは良かったです。
6/17追記:俳優陣は、やはり中井貴一は今回の筒井役に似合ってた、と思うのですが、母役奈良岡朋子も、田舎にいる市井の老母、の優しく気丈な渋い物腰。「崖の上のポニョ」での施設の老人の声役、以来でした。
娘倖役は本仮屋ユイカだった、と後で知ったのですが、私は「スウィングガールズ」('04)以来。当時、少し他の同年代女優とは違うユニーク存在感、という印象でしたが、久方に姿を見て、ソツのない、結構オーソドックスな若手になっていた、という感じ。見学に行った駅で、職場の人に「テツ(鉄道マニア)か?」と聞かれ、「いいえ、倖です!」と笑顔で応じてたのが、唯一、「スウィング・・」での天然さ重なりました。
また、筒井と同期新人の、若い運転手宮田役は、三浦友和・百恵夫妻の次男三浦貫大だった、というのも後で知って、初見で、あれがあの夫婦の、という感慨も少し、でしたが、元甲子園ピッチャーでありながら肘を壊しての、不本意な就職で、不機嫌そうな様子から、徐々にですが心を開いていく青年役。演技力は未知数な?でしたが、友和+百恵遺伝子、と言われれば、という面差し・硬質な印象でした。
あと、宮崎美子は「ミラクルバナナ」にも出てたのでしたが、明るく甲斐甲斐しい介護士役、電車会社社長役の橋爪功も、ローカルで緩い、いい味。こういう脇役陣も、この作品の良心を支えてたかと。
そして、社長とペアの部長役佐野史郎の姿に、この人が出てたドラマ「誰にも言えない」のユーミン主題歌「真夏の夜の夢」が頭を過ったりしたのですが、この素朴で和やかな展開に、ユーミン曲、というのはやはりどうもイメージが湧かず、一体どう来るのだろうか?と、思ったのでした。
(C)(株)ゼスト 出版事業部
ラストになってエンドロールと共に、田園の中走る小さな電車の俯瞰映像に重なって、ゆったりしたイントロからの曲。やはり最盛時の切れ味、というのではないけれど、穏やかなバラード。そう作品との調和は違和感なく、歌詞も、年月重ねたカップルの愛情を歌い、中井・高島が演じた夫婦関係にフィットするラブソング。そもそも、曲タイトルからして、この作品とのギャップを感じてたのですが、なるほど、という落とし所、と。
2番に駅の情景も入ってたり、終わった直後の印象は、曲自体、さすがに作品の味からはみ出ない、無難な感じで、帰り道でも、もし既成ユーミン曲で似合うとしたら、と考えてみたりして、故郷に戻って再出発、のテーマだと、「生まれた街で」。
でも、「MISSLIM」収録の元曲だと、人生を重ねてきての帰郷、という状況には、すっきり透明感ありすぎ、な気もして、今のユーミンの声でアコースティック版、でどうだろう、とか、実際流れてみないとフィット具合は判りませんが、おそらくそれなりに、感慨はあったかと思ったのですが、
その後改めて「ダンスのように抱き寄せたい」(歌詞)を聞き直してみたら、サビの所が、メロディ自体自然と頭でリフレインして、遅ればせながらジワジワと、いぶし銀のような染み入り方。その1番の「・・ダンスのように もう踊れない 錆びたぜんまい 止まってゆくけれども・・」のような歌詞も、
劇中の筒井の、50才手前で、田舎の小さな車両の運転手として再出発、それだって技術もいるし、人命も預かる仕事、でも生き方的には、かなり不器用で不恰好、かもしれないけれど、そういう風に、世の中でエリートとしてやっていく、という事に、価値を見出せなくなった、ある意味、上手くは泳げなくなった、という悲哀の部分、その代わり、スローでも自分なりの泳ぎ方、を得た、という幸福、ではありますが、そういう流れと絶妙にオーバーラップ。
思えば「ダンスのように踊る」、というのも、意味が重なって妙だったり、2番の「・・どんなに疲れ みじめに見えてもいい・・」なんて、およそ往年のユーミンらしくないフレーズですが、そういう所も含めて、この曲の味、というか。
年月を経たからこそ、傍目からみたらスマートには出来なくなった、または、したくはなくなってしまった事、というのも確かにある、でも、等と思ったり、そこら辺は、路線はラブソング、でも、年輪重ねたユーミンならでは掬い取った不器用な心の機微、のような感じもあって、やはり劇場で映画と共に聞いた、という効果もあるのかもしれませんが、近年のユーミン曲では、何だか一番ツボにきました。
6/18追記:そういう風に、ユーミンテーマ曲も感慨あったのですが、やはり「白い船」大人版、とも言えそうな、多少綺麗過ぎであっても、素朴な夢の実現、その充実、人情味、とか漂う作品。今更ですが、本当に、必要なんだろうか?という、当然のように、色んな類の過激さ、刺激的なシーン、設定等が散りばめられた作品が多過ぎて、
情報の氾濫で、現実社会の、人の価値観も不穏な今日で、こういう、派手さなくても、人生の機微を地道に前向きに描いて、様々な年齢層や状況の人の心に、さり気ないエールを送るような作品は、貴重、と改めて。個人的には、この時期に見て良かった、という作品でした。
関連サイト:「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」公式サイト、http://www.paoon.com/film/jmrluznqba.html
関連記事:スウィングガールズ(’04)、天国の本屋~恋火(’04)、ハート・オブ・ザ・シー(’03)、白い船(’02)、地球街道 北イタリアの旅、アジアンタム・ブルー(’06)、ミラクルバナナ(’05)、崖の上のポニョ(’08)、竜馬の妻とその夫と愛人(’02)~追悼・市川準監督~、ユーミンと映画・市川準監督、風のガーデン(’08)~最終話ナツユキカズラ、HERO(’07)、時をかける少女(’10)
<’98年3月、海ほたるにて>
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