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Something Impressive(KYOKOⅢ)

北京的西瓜(’89)

昨日、最寄の図書館で大林作品「北京的西瓜」の上映会があって、これは未見だったし、都合も合ったので、見てきました。以前ここで見たのは「ひまわり」だったかと。「異人たちとの夏」('88)の次、「ふたり」('91)の前の作品だったのでしたが、千葉の船橋の、八百屋の主人と中国人留学生達との交流の実話を元にした物語。

ふらりと店にやって来て、野菜が高い、とこぼす留学生。当初は、春三・美智夫婦(ベンガル・もたいまさこ)共軽い善意で、安く売ってあげたりしていたのが、彼らの実情を知って、夫の方が、何くれとなく世話を焼き始め、次第に当然のように自分を頼る彼らへの、うっとおしさもふとこぼれますが、「お父さん」と慕われ、

建築の勉強がしたいけれど、日本の建物を見に行く余裕がない、という彼らを、店の小トラックで東京見物に連れて行ったり、という辺りまでは、微笑ましい感じでしたが、次第にエスカレート。

彼らのために店のお金を持ち出し、息子の自転車や妻のネックレスをあげてしまったり、相談もせず賃貸物件の保証人になったり、ささやかに八百屋を営む、息子・娘がいる家庭はないがしろ、明らかに常軌を逸した行動には、不快感も。

周囲に「中国病」と揶揄され、妻は止めようとはするものの、まともに衝突する気力もなく、という所。そういう人の良さ+頑固な夫、途方に暮れる妻、を、ベンガルともたいまさこが熱演。ベンガルは、折に中国人に間違えられる、という科白もあったり、その風貌や雰囲気も役柄にフィット。

店での軽妙なやり取りに、折に笑いも起こってましたが、どうも前半、木野花演じる女主人の居酒屋の常連の近所の人々と共に、ガヤガヤとした群像劇のようで、ちょっと毛色変わった大林作品、という感触でした。

後半、ついに店も税務署から差し押さえられるまでになって、春三も倒れて入院、そこから、留学生達が、店を盛り上げようと働いて、現実的にはそう簡単には、という苦境かと思いますが、いい方向へ、という明るい流れ。

結局美智も、色々ありながら、留学生への愛情を春三と分かち合い、熟年夫婦の絆の確認、という所で、先日の「RAILWAYS・・」のように、いわば夫が、日常を逸脱して打ち込み出したものを見守る妻、という立場。背景やテイストは全く違いますが、こちらのもたいまさこの方が、常に顔を付き合わし振り回される日常の中で、まるで菩薩のような、という忍耐力、懐、という印象でした。


丁度この撮影の頃、天安門事件が起こり、当時その抗議のため、劇場版では、事件が起きた1989年6月4日の数字の和の、37秒間の空白が流れた、と、後で作品紹介欄で見かけたのですが、事件のため、夫妻が元留学生達に招かれて中国で再会、というシーンのための中国ロケが出来ず、結局、機内や、ホテル、パーティ等国内収録で、

異色だったのは、劇中、ホテルでベンガルが突然、「お気づきのように、実際は中国へは行けず、この映画のための撮影は、日本でしました。・・」のような、劇中人物、でなく、出演俳優、として、タネ明かしを語っていた事。後で思えばそこだけ、ちょっと、枠の自由なイラン映画のような感じも、ですが、

「・・でも私達は、彼らと再会出来て、本当に嬉しかった。・・」のような、俳優としてか、春三役としてか?やや不明な部分もあって、どちらにしても何だか気持は伝わってきても、あえて、そういうタネ明かし説明はなくても、ドキュメンタリー、という訳ではないし、中国、という設定で、スタジオ撮影で、特に問題なさそうだし、やや込み入りすぎ、にも感じたのですが、

そこら辺は、思えば大林作品で海外シーン、というのは「ふりむけば愛」('78)のサンフランシスコ以外は覚えなく、この時、理想図として描いていた現地での撮影が、あの事件で、否応なく出来なくなってしまった、という現状を、シニカルさ込めて、観客側に、姿勢として示したかった、

また、それだけでなく、実際中国人の若者達と接し、草の根レベルでの、彼らと日本人との交流の作品を作ってきて、抗議の37秒の空白を入れた、という同監督(達)の事件自体への強い憤りもあって、製作側からしての、オンタイムな”嘘のないドキュメンタリー”にしたかったのかもしれない、等と思ったりも。


その他印象的だったのは、近所の一行と留学生達が、海辺へ出かけ、中国の楽器で、和やかな曲を、弾いたり、歌ったり、という、幻想的、にも思えるような演奏シーン。

そこで、彼らが西瓜割りもしていて、春三と留学生が、船橋と北京の西瓜のどちらが美味しいか、を自慢しあっていて、タイトルにもなってましたが、終盤、飛行機(セット)に乗り込む前、春三が、お金の入った手紙と共に渡されてた、北京の西瓜は、卵型だったのでした。

一般庶民の、自分の懐勘定や事情、戸惑いや苛立ち、そういう現実感もありながら、余り理屈ない留学生達への人情、単純に、慕われる、頼りにされる、という事への張り合いや喜び。そういう中で生まれてた絆、のようなもの。やはりこれも、ややファンタジック実話ベース、ですが、そういう世知辛さを超えた所にある心豊かさ、のようなエキスは、いい後味でした。

関連サイト:Amazon「北京的西瓜」http://www.paoon.com/film/pihxrhxk.html
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北京的西瓜(’89)_a0116217_1524143.jpg

                    <’98年3月、城ヶ島にて>
Tracked from 象のロケット at 2010-06-23 00:06
タイトル : 北京的西瓜
八百屋の主人と中国人留学生達との交流の実話を元にした物語。... more
by MIEKOMISSLIM | 2010-06-20 00:00 | 邦画 | Trackback(1) | Comments(0)