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Something Impressive(KYOKOⅢ)

The Borrowers(’52)/床下の小人たち(’69)

先日「借りぐらしのアリエッティ」、同<2回目>記事で追記、また触れたように、原書「The Borrowers」を読んで、意味が不明、あやふやで書き出した単語を、辞書でチェックしながら単語帳へ書き写し、アルファベット順に整理してましたが、一昨日一通り終了。地味な作業でしたが、特製アリエッティノートへの整理に入ってから張りが出たりでした。

文芸もの原書は随分久し振り、60年前の著作で、ain'tのような古語や、3単現が忠実でなかったり、so's(so as)のような見慣れない短縮形もあったり、細かい動作の連なる文が判りにくかったりする所もあり、邦訳の原作と照らし合わせつつ、でしたが、
                                 (C)(株)岩波書店
The Borrowers(’52)/床下の小人たち(’69)_a0116217_1532239.jpg素朴な動作や、細かい日用品、動植物等、思ったより不明・あやふやな語があって、トータルで単語帳27ページ分に。余り英検や受験・学校英語には縁なさそうなものも多いですが、せっかくだしなるべくインプットを、と。

一番印象的だった表現は、終盤、少年が、料理人ドライヴァによって床下の家を無残に破壊されて、自室に閉じ込められ、「He crept into bed then, because he was cold, and cried his heart out under the blankets.(彼は、寒かったので、ベッドにもぐりこみました。そして毛布の下で胸がはりさける程泣きました。)」という場面の、「cry one's heart out」という所。

やはり、この少年も劇中の翔も、アリエッティ(一家)の役に立とう、捕えようとする人間達の手から逃そう、という柔らかな心、勇気は同じ。でも、翔は現代っ子的というか、ハルに割とクールに接してましたが、原作の少年の方が、そういう大人とのギャップ、傷つき具合も深かった、と。

原作中の、ハルに当たるドライヴァは、当初床下の小人達の姿に、金切り声を上げて椅子やテーブルに飛び乗ったり、というリアクション。そもそも得体の知れないものへの”恐れ”から、彼らを駆除しようとした感でしたが、

ハルは、小人を目にしても、そういう恐れ、は全く見せず、指先であっさりホミリーを捕まえ、物珍しげに昆虫のようにビンに捕獲、という図太さ。この相違は、ドライヴァをやはり今風にコミカルにアレンジ、という他に、見方によったら、60年前と現代での、人間の自然界への態度の、傲慢な変化、というような気もしたり。

そして、劇中のハイライトがアリエッティと翔の別れ、なら、原作のハイライトは、少年が、家から離れる直前、大人たちの目を盗んで、渾身の力でpick-ax(つるはし)で、鉄格子の辺りのれんがを砕き、小人一家の逃げ道を作った、間一髪のスリルだった19章、でした。


8/7追記:また、アリエッティがホミリーを励ます場面等で何度か出てきた「Don't take on.」で「元気を出して」、というのは「take on」が「~の性質を帯びる」「人気を博す」とかしか浮かばず、余りピンと来ませんでしたが、「取り乱す」の意味もあって、こういう使い方もあるのだった、と。

劇中私はポッドの三浦友和、ホミリーの大竹しのぶの声は、特に可も不可も、でしたが、何だか原書で通っている時の方が、ホミリーの元々のオーバーアクションぶりというか、喜怒哀楽激しさ、というのがより感じられて、ホミリー=大竹しのぶ、のキャラクター的には妙にフィット感ありました。

その他、「tom」が「雄ネコ」や「hip」で「(野)バラの赤く熟した実」等、素朴でも初耳語があったり、書き出した動物は「badger(アナグマ)」「caterpillar(イモムシ)「minnow(ミノー、コイ科の小魚、邦訳ではメダカ)「mole(モグラ)」「stoat(イタチ、テン)」「toad(ヒキガエル)」「wood-louse(ワラジムシ)」「wasp(スズメバチ)」「weasel(イタチ)」、

The Borrowers(’52)/床下の小人たち(’69)_a0116217_2183499.jpg植物は「acorn(どんぐり)」「beech(ぶな)」「clove(チョウジ)」「campion(ナデシコ科薬草)」「elderflower(ニワトコの花)」「harebell(イトジャシン)」「hazel-nut(ハシバミの実)」「haw(サンザシの実)」「hawthorn(サンザシ)」「primrose(サクラソウ)」「sandalwood(ビャクダン)」「sloe(スモモの実)」「sorrel(ミヤバカタバミ)」「thyme(ジャコウソウ、香辛料のタイム)」等。

そもそもがどういうもの?というのも割とあって、普段の生活では縁ないものがほとんど。こういう語自体、自然界の味わい、かも知れませんが、今読んでる途中の続編「野に出た小人たち」('76)でも一家が腹の足しによく食べている「ハシバミの実」は、どうも劇中では登場の覚えありませんが、いわゆる「へーゼルナッツ」だったのだった、と。

物語自体は、少年の姉にあたるメイという婦人が、親類の少女ケイトに、手仕事をしながら、昔弟から聞いたこの話を語る、という形で、最初に引っ掛かった語は、メイがケイトに編み物の手解き、という所の「crochet(かぎ針で編む)」。

日常品で印象的だったのは、「洗濯ばさみ」は「peg」、「角砂糖」は「lump sugar」でよかったのだった、と。劇中のように、アリエッティが選択ばさみで髪を束ねていた訳でもなく、角砂糖が特に少年とアリエッティの橋渡しアイテム、という訳ではなかったですが、

メイがその地を、弟が去った1年後に訪れ、枕ケースに、コーヒー豆、塩、コショウ、布や細々した物と共に角砂糖も入れて、野原の小人一家がいると思われる場所へ置いてきて、翌日にはそのケースが消えていた、というエピソード。彼らの手に渡ったかどうかは定かではないですが、やはりささやかな贈りもの、という風に使われてたのでした。

また、裁縫で使う「thimble(指ぬき)」とかは、「指ぬき」自体、手縫いの際使った事はあると思いますが、やはり一瞬何だっただろうか?というものも。そういう類で「cotton-reel(糸巻き)」「darning needle(繕い針)」「ciderpress(りんごしぼり器)」「coal-scuttle(石炭バケツ)」等という、合理化生活からは消えつつあるようなものが散りばめられていて、時代が偲ばれました。


8/8追記:ちょっと検索したら、著者メアリー・ノートンは、1903年ロンドンに生まれ、修道院経営の学校で少女時代を過ごし、ヨーロッパを旅したり、女優活動した後、裕福な船会社経営者と結婚、4人の子を持ち、と豊かな少女期~20代前半を過ごしたようですが、

夫の会社が倒産、第2次大戦の煽りもあって、子供をかかえて、アメリカに渡ったり、自分も役所勤め、また短編、雑誌の記事を書いたり、翻訳、女優をしたり、戦後、イギリスの児童文学の先駆者として評価されながらも、イギリス各地を転々とし、困難な生活を送った模様、と。

                                    (C)(株)岩波書店
The Borrowers(’52)/床下の小人たち(’69)_a0116217_17131082.jpgその後、小人シリーズを出版、何の魔力を持つ訳でない、単にサイズが小さいだけの、人間と変わらない小人達の、いわば等身大の生活、感情、冒険を描いた、という点がユニーク、と言われてるようですが、

それは、元々想像力豊かな作家自身の資質、+そういう否応ない現実的な、漂流生活等の苦労の経験も、おそらく反映されていそうで、ノートンがあえて意図したのか?ですが、人間のおこぼれで細々暮らす小人達、が、自然界、また小数民族の化身、とも取られて、痛烈な現代社会批判、とも言われる由縁かも、と思いました。

ミクロ世界のファンタジーと、そういう切実に一家が日々を生きる、という現実感が程好い具合にミックスされているので、全くの子供向けの夢物語、というよりは、感覚的に、大人にもフィットする部分があって、今、この機会に、初めてこのシリーズを知って手に取ったのですが、そういう意味では”手頃な”児童文学なのかも、と。

また、このシリーズの前に、ノートンには「魔女のベッド南の島へ」('42)「・・過去の国へ」('47)という著作もあって、この主人公もやはり、強い力を持つ訳でない、箒から落ちたり、弱みも見せる、人間的な、プライスという見習い中の魔女、との事で、

もしかしたら、「床下・・」は40年前にも企画、という事から、ノートンへの傾倒ぶりが偲ばれる宮崎監督なので、「魔女の他急便」('89)の原作は角野栄子の児童書でしたが、今にして、そのルーツは、その魔女シリーズ!?だったのかも、と頭を過ぎりました。ちょっと検索しても、直接関連付けるようなものは見かけなかったのですが。

(C)(株)岩波書店
The Borrowers(’52)/床下の小人たち(’69)_a0116217_17135189.jpg「床下・・」は、米・英合作「ボローワーズ/床下の小人たち」('97)(ピーター・ヒューイット監督)として、実写で映画化されてる、というのも、ノートン略歴で知ったのですが、これは劇場未公開、ビデオはあってもどうもDVD化はされてないようで。

「借りぐらしのアリエッティ」では、舞台を今の日本に移し、一時代前の英国のノスタルジー色、はなく、アリエッティを、好奇心旺盛な小人少女、という以上に、もう少しジブリ風というか、アクティブなキャラクターにして、少年との距離も、翔の肩に乗って、一緒に捕えられたホミリーを救出に行ったり等、より密接にして、ロマンティックな余韻持たす別れ、の話にアレンジ、という感じですが、

一部細かい所の忠実な映像化や、「床下・・」のみでなく、続編にも目を配って、そのエキスも取り入れているようで、単なるヒント、でない原作への愛着も感じられて、今回、そう複雑なメッセージ性、というより、割と素直な印象、というのも、そもそも現実問題的な要素も含んで紡ぎ出されていたノートンファンタジーへの、ある種の敬意、という感もしたり、という所でした。

関連サイト:「借りぐらしのアリエッティ」公式サイト楽天ブックス「The Borrowers」amazon「床下の小人たち」メアリー・ノートン略歴
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              (C)PUFFIN BOOKS

The Borrowers(’52)/床下の小人たち(’69)_a0116217_15102286.jpg

Tracked from いい加減な・・・ at 2010-08-07 23:54
タイトル : 借りぐらしのアリエッティ
今日から公開なんですかね。 先日、いつもお世話になってるブロ友さんに誘われて試写会行ってきました。 なんせスタジオジブリの作品ですからね。お誘いいただきラッキーでした。ブロ友さんありがとうございます。 そもそも、これには『床下の小人たち』と言うメアリー・ノートン作の原作が有るんですね。ブロ友さんが借りたと言う原作本を少し拝見させていただきました。 映画のほうは小人のアリエッティが人間に姿を見られた事から、生活が一変するって感じでしたが、ブロ友さんのお話では、原作は前半は小人たちの生活が書かれて...... more
by MIEKOMISSLIM | 2010-08-06 00:00 | 本・映画・勉強 | Trackback(1) | Comments(0)