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Something Impressive(KYOKOⅢ)

川をくだる小人たち(’76)

先日「借りぐらしのアリエッティ」の原作「床下の小人たち」続編、「野に出た・・」に続く「川をくだる・・」を読み終えました。原書は「The Borrowers Afloat」('59)、訳は引き続き林容吉さん。「野に出た・・」ラストで、スピラーとトム少年に助けられて、トムと祖父の家に住む、親戚小人一家宅に辿りついた一家、という所からの続き。2章分程ほぼ重複。

そもそもこのホミリーの兄、ヘンドリアリの一家は、「借りぐらし・・」劇中でも、名前も出たのだったか、親戚の存在にすら触れた事があったか?どうも覚えないのですが、「床下の・・」では、野原の何処かのアナグマの巣にいるらしく、長年会っておらず、
                                      (C)(株)岩波書店
川をくだる小人たち(’76)_a0116217_21185575.jpg娘のエグルティナは外を散策中猫に襲われたらしい含み、アリエッティが少年に託した手紙への、叔父からの短い返事では、叔母ルーピーも行方不明、だったですが、特に経緯の説明なく、2人共健在していて、再会。

エグルチィナは猫に遭遇したショックかで、口がきけなくなっていた、というのが、唯一それを匂わすエピソードでした。

この親類宅で、住処の一角をあてがわれ、ポッドがイタチの皮で皆の靴を作ったり、アリエッティが末娘ティミスに色々物語を聞かせたり、和みはあっても、4人子供がいるヘンドリアリ夫婦に、ポッド一家の居候を歓迎、という実質的・精神的なゆとりはなく、

元々ホミリーとルーピーの相性は良くなく、そもそも「床下の・・」最後でメイがポッド一家に届けたはずの、元の家のドールハウスのや自分達の家具もこの一家の物になっている事への、ホミリーの腹立たしさや諦め、小人なりの妻(女)同士のある種”持ち物”比べ、妬みや羨望等も。

アリエッティとトムとは、「借りぐらし・・」での翔、「床下・・」での少年とのようなドラマ性は見られず、彼女がこっそり出掛け、話をするだけですが、多分それが、後に老いたトムが、アリエッティから聞いた話、としてケイトに語る「野に出た・・」の冒険談のよう。

ある晩ホミリーに、その密かな交流が発覚。でも、アリエッティは少年と祖父が数日後、この家を去る、という事を聞いていて、それは、生活物質が家から無くなる、という、小人家にとっては大打撃、な情報で、

それを機に、ポッドは、一家でこの住処を去る決心をして、それを告げ、別れまでの親戚夫婦の様子も、やはり、一度は引き止めようとする情と、彼らが立ち去る安堵感、のミックス。

でも家の周りをうろつく白イタチの脅威に、出て行くルートもなく、ポッドも一度は、子供(アリエッティ)のために、プライドはさておき、妻と共にヘンドリアリ夫妻に頭を下げてここに置いてもらおうとする様子、等も、複雑な心情、という感じ。

(C)(株)岩波書店
川をくだる小人たち(’76)_a0116217_21335489.jpg「床下・・」、「借りぐらし・・」では、登場小人はポッド一家のみで、人間の小サイズ的暮らしぶりであっても、メルヘン的な印象も割とありましたが、「野に出た・・」では、彼らが自然界に出ての、自由な広がりやその代償の困難、が描かれ、

この「川を・・」にかけて、親戚一家との関わり、になって、同じ小人族、親戚としてある程度の情、本音と建前、等入り混じって、何だかやはり、ファンタジー児童文学とはいえ、そのまま市井の人間ドラマ的な様相にも思われたり。

それでも、トムがアリエッティに別れのはなむけとしてくれたパン一切れ、チーズ切れはし、焼き栗、ゆで卵。そのゆで卵1つが、その後川を漂流する事になる一家にとって、結構貴重な食料になったり、ミクロサイズの小人達にとっての現実描写、が巧みな面白さ。


8/21追記:一家が足止め状態の所へスピラーが登場、出て行くにも行き先不定の一家に、「リトル・フォーダム」を提案。それは、アリエッティがティミスに話していた、ミニチュアの村で、借り暮らし族の間での伝説、でしたが、スピラーによると、実在の場所で、川を下れば二日位で行ける、と。

スピラーに導かれ、一家は下水ルートで、石鹸入れのふたに、卵、アリエッティ、ホミリーが乗って出発、ある家からの風呂の排水の洪水に合ったり、アリエッティにとっては、そういう色んな事が、新鮮そうですが、また波乱の冒険の始まり。

川をくだる小人たち(’76)_a0116217_18571521.jpg「借りぐらし・・」で見られたこの本からのエピソードは、ラストのスピラーのやかんでの旅立ち、川をゆくシーンで、本では後半の、川を下っていく過程ですが、劇中のようなゆったりした様子、は少なく、

「リトル・フォーダム」に出発前スピラーが用に出かけている間、一家が身をよせていたやかんごと、雨で増水した川になく流され、漂流状態に。元々やかんではなく、平たいナイフ箱での船旅、の予定が、否応なく、という経緯だったのでした。

川の真中の浮島のような所に引っ掛かり、密漁に来ていた「野に出た・・」のジプシー男マイルド・アイに、再び捕まえられそうになったり、危険な目にも。

このシリーズの挿絵はダイアナ・スタンレーという人で、ペン画での迫り来て手を伸ばすマイルド・アイ、も不気味ですが、小人目線での圧迫感、大丈夫だ、と励ますポッド、ホミリーの、窮地での決まり文句、ポッドに「あなたはずっと優しくしてくれたわね」等という呟き、間一髪、またスピラーの救い、という辺りもちょっとした冒険のヤマ。

表紙(↓)では,割と一家がくつろいで、平和そうにも見えたのでしたが、それは、流され始めて水浸しになったやかんから、とりあえず淵に上って、ポッドは非難用具作り、ホミリーは不安気に柄に腕を廻し、アリエッティは寝そべって、魚を眺めて一時楽しんでいる、というシーンだったのでした。


今、この続きの「空をとぶ小人たち」('69)の3分の1位読み進んだ所で、一家が辿りついた「リトル・フォーダム」での様子。そもそもここは、アナグマを救おうとして片足を失くしてしまった元鉄道員が、趣味で丹念に作ったミニチュア村で、

(C)(株)岩波書店
川をくだる小人たち(’76)_a0116217_916415.jpg「川を・・」での伝説で広さ20a(2000㎡)、というと結構広そうですが、鉄道も通り、店の家並み、教会、学校等もあり、未踏ですが「東武ワールドスクエア」の小さい普通の村版、のようなイメージでしょうか。借り暮らし族と同じ位の背丈の石膏細工の人々がいて、「借りぐらし・・」「床下の・・」のドールハウス的ミクロな世界の趣あって、なかなかファンタジック。

アリエッティとスピラーが、石膏細工の乗客に混じって、列車に乗ってみたり、この本でもまたその内波乱が起こるようですが、今の所一家の暮らしも平穏、このシリーズ中読んでて一番、絵本を開いてるような楽しみあります。

関連サイト:「借りぐらしのアリエッティ」公式サイトamazon「川をくだる小人たち」amazon「床下の小人たち」amazon「野に出た小人たち」
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              (C)(株)岩波書店

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by MIEKOMISSLIM | 2010-08-19 00:00 | 本・邦画 | Trackback | Comments(0)