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Something Impressive(KYOKOⅢ)

夏時間の庭(’08)

先日オルセー美術館展で、チラシのイベント欄で、6月に「炎の人ゴッホ」7月に「夏時間の庭」の映画上映会があったと見かけ、「夏時間・・」は気になりつつ未見だった作品で、DVDで少しずつ見て昨日終わりました。

オルセー美術館20周年企画で、オルセー全面協力の下での製作作品だったのでしたが、舞台となるパリ郊外の一軒家の庭やその周辺の、豊かな緑や花、まさに印象派作品の映像化、のような風景も折々。

老母エレーヌ役エディット・スコブは、近年見た中では「薬指の標本」('04)に少し出ていたのでしたが、画家だった亡き叔父との思い出、叔父の作品、数々の美術品コレクションや家具、そういうものが詰まった家への愛着、でも自分の亡き後それを受け継ぐ状況、性質でない子供達。表面上事務的に事を運びながら、思いを秘めた物腰。

その娘アドリエンヌ役のビノシュは、私はやはりオルセー20周年記念の映画制作プロジェクト第1回作品「レッド・バルーン」('07)でのヒロイン役以来、この作品はその第2回、という事になるのか、

今回は現代美術アーティストで、母や家への思い出の愛着、美術品への傾倒はあっても、伝統、感傷やノスタルジーよりは、実質的な価値を取るドライさも持つ現代人的役柄、という感でした。

その兄フレデリック役シャルル・ベルリングは、出演作を見ると姿は「とまどい」('96)以来のようですが、「皇帝ペンギン」('05)のナレーションがこの人だったのでした。

専門は経済でも、地元に住む長男、また資質的にも一番、家や美術品に愛着を持ち、継ぎ残したい思いの強かった息子で、妹や弟ジェレミー(ジェレミー・レニエ)の合理性との狭間で揺れる、という人間味。


劇中の家の美術品は、絵画以外は全て美術館や個人蔵のを借りた本物、とのことで、アールヌーヴォーのフェリックス・ブラックモンの花器、ヨーゼフ・ホフマンの棚、マジョレルの書斎机、といった美術館級らしい品々が、生活の場にさり気なくあるラフさ。

コローやルドンの絵はさすがに本物ではなかったようですが、一番頭に残ったさり気なさは、フレデリックが幼い頃壊した!”ドガの石膏像”、という件。後にオルセーで修復された優美なその像のシーンもあり、それはどちらか不明。

また、家政婦エロイーズが、エレーヌの死後形見の品に何か、と言われて選んだのが、本人にとっては、平凡な品にした、と甥に語った花器で、それが実は2つのブラックモンの花器の1つで、その時フレデリックはそうと知らず渡したのかもしれませんが、特に後に取り返そうとしたりする訳でなく、片方はオルセーに寄贈されるのですが、

エロイーズにとっては、それが80年代の貴重なガラス器、というのは関係なく、花を生ける度、長く親しく仕えたエレーヌを思い出す、という意味があるだけの日用品、というのが、そこはかとなく印象的エピソード。


8/27追記:どれ程価値ある芸術品、と言っても、その物自体の捉え方や思いは、人それぞれ、というのが、一家の兄弟達の姿勢にも滲み出ていたようで、コローの絵に特に愛着、未練を持っていたフレデリックに対して、

アドリエンヌは、中国移住で資金のいる弟の事を思えば、(コローは)真っ先に手放すべきでは?と述べ、彼女自身は、自分の好みの食器や盆を得ただけで、結構満足な様子。

伝統や芸術を尊ぶ、というような事への、現代生活・文化の侵食、というか、この家での経緯だけでなく、終盤オルセー館内の案内ツアーの途中、客の1人の携帯に出た男性が「今家具の所で、もうすぐ終わるから映画でも探しておいて」等と答えていて、何気ない一コマですが、こういうシーンをあえて、というのも、オルセー協力作品にして、やや皮肉っぽさを感じたり。

相当な相続税の問題もあったり、劇中のように、美術品を美術館に寄贈、というのが一家にとって実質妥当な道だったのかもしれませんが、オルセーで、自分達の家具だった机や花器を目にして、複雑な心境のフレデリック夫妻。

フレデリックが、作品が閉じ込められている、素通りされている、花器は花を生けないと価値がない、等とつぶやき、2つのブラックモンの花器の、エロイーズが形見にもらい家で花を生ける方と、オルセーで美術品として展示される方と、どちらの方が創り手の意に沿っているのか、花器自体にとっての値打ちはどちらの方が?等と、思ったりしましたが、

それに対して妻が、「それでも(観客は)眺めながら、歴史を共有している」と語っていたのも、ある種美術館の意義、というか頭に残った科白。

「レッド・バルーン」では、オルセーはヴァロットンの「ボール」を子供達に解説、というシーンで舞台になっていただけの覚えで、今回それよりは長く、この館内シーンでも、芸術(品)と現実、という複雑な意味合いも投げかけてた感じでした。


8/28追記:そういう成り行きを、全て見越していたようなエレーヌの幕の引き方。彼女と叔父の定かな血縁の有無等不明でしたが、仄めかされていた絆の関係、そういうものも含め一切を、子供達に託すのでなく、自分の生涯と共に封印、整理しようとしたのか、エディット・スコブのエスプリ効いた情感抑えた渋味。

この作品は、見る前俳優陣は、やはりビノシュ出演、というのに目を引かれたのですが、やはりヒロイン、というか要(かなめ)はスコブ、だったかと。

それと、アドリエンヌの恋人役で、イーストウッドの息子カイルが少し出ていて、出演作を見てみると「マディソン郡の橋」('95)にもいたのでしたが、思い出すのは、少年時、割と好感だったイーストウッド作品の「センチメンタル・アドベンチャー」('82)でのイーストウッドの甥役で、今やこういう風貌になっていた、と。ジャズ・ミュージシャンとして活躍中、父の作品の音楽担当したりしているのでした。

監督・脚本はオリヴィエ・アサイヤスで、マギー・チャンの元夫らしく、私は多分作品未見、公式サイトスタッフ欄を見ると、細やかな心理描写、現代社会を象徴する作風が特徴的、との事ですが、この作品でも、確かに芸術モードに”今”を絡ませようとするスタンスは思われたり。

ラストにかけて、売却する家での、最後の若者達のパーティー。フレデリックの長女が主催のようで、その前に彼女が非行に走って警察から警告される、というような一コマもあったのでしたが、エレーヌの美術コレクションの館、にはミスマッチな、ラフな音楽、抑制ない自由なムード。

それでも、家の周囲の、そのまま印象派作品舞台のような緑の野原で、恋人に、祖母との思い出、売られる家への感傷を垣間見せる、今時の少女の姿。形はなくとも、受け継がれていくものはあってほしい、というような後味。

優美なだけの物語、という訳ではなかったですが、数々の美術品、それらが生活の中に自然にあるラフさ、また背景の風情ある家や穏やかな庭の緑、絵画的な田園風景等だけでも満足感な作品でした。

関連サイト:「夏時間の庭」オフィシャルサイト
関連記事:皇帝ペンギン(’05)綴り字のシーズン(’05)オルセー美術館展薬指の標本(’04)レッド・バルーン(’07)オルセー美術館展2010 「ポスト印象派」

夏時間の庭(’08)_a0116217_1358490.jpg

                <モネ「ヴェトゥイユの画家の庭」カード>
Tracked from シネマな時間に考察を。 at 2010-08-29 12:05
タイトル : 『夏時間の庭』 
遺された美術品たちのため息が聞こえてくる。 それぞれの胸の内に生き続ける思い出を一式。 時代が、世代が変わっても変わらない確かなものとは。 『夏時間の庭』  L'heure D'ete 2008年/フランス102min 監督・脚本: オリビエ・アサイヤス 出演:ジュリエット・ビ... more
Tracked from サーカスな日々 at 2010-08-29 13:29
タイトル : mini review 10468「夏時間の庭」★★★★..
フランス・オルセー美術館20周年企画の一環で製作された、美しい芸術と印象派を思わせる自然を堪能できる感動的な家族ドラマ。母から遺された貴重な美術品を整理する兄妹たちの姿を通して、いつの時代も変わらぬ人の心を描きだす。主演はオスカー女優のジュリエット・ビノシュ。フランス映画の異才、『イルマ・ヴェップ』のオリヴィエ・アサイヤスが監督を務める。スクリーンを彩るコローやルドンの絵画、アール・ヌーヴォーの家具など、色あせることのない本物の重みが印象深い。[もっと詳しく] 誰にでも、思い輝く場所がある。 フ...... more
Tracked from LOVE Cinemas.. at 2010-08-29 22:32
タイトル : 夏時間の庭
フランスのオルセー美術館の20周年企画として全面協力を受け制作された作品。フランスらしい豊かな風景の中に描かれた家族の絆はとても温かいものでした。主演は『イングリッシュ・ペイシェント』でオスカー女優となったジェリエット・ビノシュ、長男役のシャルル・ベッリング、『ロルナの祈り』のジェレミー・レニエの3人。数々の本物の美術品が登場する点も見逃せません。... more
Tracked from だらだら無気力ブログ at 2010-08-30 00:05
タイトル : 夏時間の庭
フランス・オルセー美術館20周年記念の企画の一環として制作された映画。 母親の遺産を巡って、母への想いと彼らにつき付けられる甘くない現実との 間で揺れ動く子供たち姿を描いた家族ドラマ。パリ郊外の町で広い庭と赴きのある一軒の邸宅にエレーヌという女性が お手伝…... more
by MIEKOMISSLIM | 2010-08-26 00:00 | 洋画 | Trackback(4) | Comments(0)