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Something Impressive(KYOKOⅢ)

宮廷画家ゴヤは見た(’06)

年頭に、今国立西洋美術館で開催中のゴヤ展を見て、後日ゴヤ題材で未見のこの作品があった、と思い出し、久方にDVDで少しずつ見て、昨日見終えました。

18世紀末~19世紀初め、物語自体はフィクションのようですが、スペインの史実、実在の人物も絡ませての歴史ドラマ。

宮廷画家ゴヤは見た(’06)_a0116217_2431986.jpg久方のやや濃い口洋画、でしたけれど、展覧会のタイトルにも光と影、とあったように、スペインという国のある時代、最高峰の国王一家~動乱の中悲惨な市民たちを描いたゴヤの周りで、もしかして有得たエピソード物語、的で、一言で言うなら、ゴヤという画家から生まれた”切ない悪夢”、という後味。

先日見たばかりのゴヤの多彩な作品も劇中、エンドロールに一部登場、当時の版画の製作過程シーンなどあったり、また、そういう題材が描かれた時代背景の映像解説、のような向きもあったり、この折に、絵画群とセット鑑賞で、趣も増した、という感じ。


ゴヤ(ステラン・スカルスガルト)とモデルだった娘イネス(ナタリー・ポートマン)の間には、「真珠の耳飾りの少女」のフェルメールとモデルの少女のような、異性として惹かれあうモードはなく、ゴヤは、波乱に巻き込まれた娘を人道的に擁護したりする、傍観者の立場でしたが、

宗教絡みのその波乱が、裕福な商人の娘の身から、一方的に異端審問に呼ばれ拷問にかけられ拘束される悲劇から始まって、結局精神も病んでしまい、人間、1人の女性として、結構シビア。風貌や表情的にもあれ程までに、哀れさ醸しだすナタリー・ポートマン、というのも覚えなく。

また、修道士ロレンソ役バビエル・バルデムは私は「海を飛ぶ夢」以来だったのでしたが、時代の波の中、思想的にも変節したり、男としての身勝手さ、威厳と俗物ぶり、色々ミックスした修道士を、熱演、というより怪演、という印象。


1/15追記:手掛けたのはミロス・フォアマン監督で、私はフォアマン作品は「アマデウス」以来。今回作品検索してる内に、同監督はチェコ出身でユダヤ系、母と義父を強制収容所で亡くした経歴、そういう所から、理不尽な権力に対する反発、という根本のテーマを持つ人だった、と改めて。

権力の暴走の恐ろしさ、というのは、劇中カトリック教会側の、狂気めいた理不尽さ、としか言いようのない異分子狩り。告白を無理強いさせるための拷問、後ろ手に腕を縛って吊るす様が、悲鳴が示す激痛だけでなく、実際骨は大丈夫なのか?現実よりは控えめ描写かもしれないけれど、これだけでも十分不快なグロテスクさ。


そういう権力の前に、序盤はカトリック側の威厳を唱え、その後王政崩壊でリベラルな体制になったフランス思想、へと変節するロレンソ。富や妻と子供という家庭も得、でも、自分を頼ってきたイネスへの心無い対処で、人間性、というか男気は失くしてしまった、または最初からなかった、のが露呈。

フランスの勢力は衰え、彼の結末は哀れでしたが、処刑の究極の場で、また変節して命乞いをしなかったのは、フォアマン監督がこの人物に、最後の最後に権力に屈せず、筋を通させた、のかもしれないけれど、

何だかその風貌や表情から、様々な変動を経てきて、もう元に戻りたくても戻れない、変節する気力も残ってなかった、という印象も。最期の時に声をかけて微かな笑みを浮かべさせ、そして彼に付き添ったのはイネスだけ、というのも皮肉なほろ苦さ。

彼にとっては一時の戯れ、記憶にもなかった牢中での関係、心無い仕打ちを受けながらも、一旦抱いた愛情、その時宿した子供への母性愛を、精神を壊しながらも、一貫して捨てなかった、または捨てられなかった彼女。その微笑が、切なく印象的。

栄光の座から転落した彼に、最期に”許し”を与えたのが、貧しい身なりの心を病んだ彼女だった、というシニカルなニュアンス、だったのか?、各時代の権力の変遷、折々の理不尽さ、と共に、そういう中でも変わらない真実のものは、女性の(母性)愛、というのもテーマだったのか?とも。


宮廷画家ゴヤは見た(’06)_a0116217_2149182.jpgその他、小道具の絵画について印象的だったのは、ゴヤが描いた馬に乗った王妃(ブランカ・ボルティージョ)の顔が、見た者から、実際の王妃はこんなに醜くないのでは、と言われるような、美化する訳でない妙なリアルさで、お披露目した国王夫妻に不快感を与えるシーンなど。

後で、やはりそのカルロス4世(ランディ・クエイド)一家の肖像画を見たジョゼフ・ボナパルト(ジュリアン・ワダム)が、王妃にも会ったが、こんなに醜くなかった、などと言ういうシーンも。

先日展示会の映像コーナーで、最初は晴れやかな肖像画を描いてたゴヤが、様々な経験を経て、その人物の内面の本質をえぐるような描写をするようになった、ような旨の紹介があったのですが、

劇中の描写では、ゴヤ自身には、そういう王妃の描写に全く悪気はなく、いい出来、と思ってたようで、国王夫妻の不快感に戸惑い、あえて皮肉的にリアルな描写にした訳ではなさそうで。

実際はどうだったのか?いずれにせよ、自然とそういう見えたままの描写をしてしまう、そういう所も、単なる宮廷画家、で収まらず、様々な人間描写をしていった本来の資質かも、と。


宮廷画家ゴヤは見た(’06)_a0116217_2151543.jpg展覧会の目玉だった、「着衣のマハ」関連、イネス以外の一般の女性モデルエピソードなどはなかったですが、折に見覚えある絵。(1/16追記:「裸のマハ」('99)という、この絵題材のサスペンス作品があった、と発見、でも荒筋を読む限り余り食指動かず。)

エンドロールでゴヤ自画像(↑左チラシより)も映り、ゴヤ役ステラン・スカルスガルドは、目の辺りが多少似てる気も。

また、スペインを制圧して異端審問も廃止、王になったジョゼフ・ボナパルトが、弟のナポレオンに送るための絵の品定めをしてて、気に入ってたのが、前述のカルロス4世一家の肖像画と、もう1枚、中央に少女がいる絵。

見覚えある、と思ったら、展示はなかったけれど母がカードを買ってたディエゴ・ベラスケスの「ラス・メニーナス(女官たち)」(↑右)だった、と。

母はこれも展示あったゴヤ作品のどれかと思ったようだったけれど、1656年の作品で、ベラスケスが活躍したのは17世紀で、ゴヤからは1世紀半程前だったのだった、と。そういう記憶に新しい絵画作品絡みシーンも、ちょっと趣が。


そういう所で、スペインの波乱の歴史、カトリック教の旧体制~フランスが進軍・改革~その反発で、スペイン・英国・ポルトガル連合軍の逆襲(スペイン独立戦争)など、また絵画作品を上手く折り入れた人間ドラマ、とは思うけれど、正直、ゴヤ展に行ってなかったら、私はやはりあえて、という作品テイストではなかった、と。

でも、特に宗教の名の元の密室性の怖さ、権力の暴走や儚さが滲み、ロレンソが象徴する人間の表裏、イネスの悲哀と一途さとか、前述のように、ゴヤモチーフの”切ない悪夢”のような後味でした。

関連サイト:「宮廷画家ゴヤは見た」サイトAmazon「宮廷画家ゴヤは見た」プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影サイト象のロケット 「宮廷画家ゴヤは見た」
関連記事:海を飛ぶ夢(’04)フリーゾーン(’05)(「KYOKO」&イランはじめエスニック映画<1>スレッドの53)、ミュンヘン(’05)ブロークバック・マウンテン(’06)「ダージリン急行」(’07)ニューヨーク、アイラブユー(’09)プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影
<スレッドファイルリンク(ここでは「海を飛ぶ夢」「フリーゾーン」「ミュンヘン」「ダージリン急行」)は開かない場合あるようです。>

        
Tracked from サーカスな日々 at 2012-01-16 15:45
タイトル : mini review 09382「宮廷画家ゴヤは見た」..
アカデミー賞監督賞などを受賞したミロス・フォアマン監督が、スペインの天才画家ゴヤの目を通して人間の真実、愛の本質を見つめた感動作。ゴヤが描いた2枚の肖像画のモデルたちがたどる数奇な運命を、18世紀末から19世紀前半の動乱のスペイン史を背景に描く。『ノーカン...... more
Tracked from いやいやえん at 2012-01-16 16:56
タイトル : 宮廷画家ゴヤは見た
宮廷画家ゴヤ彼の絵のモデルになった娘と神父が、それぞれヨーロッパの激動の歴史のなかで翻弄されていく様を描いた物語。 当時の協会は異端審問で無実のものも投獄していた。 宮廷画家として活躍中のゴヤは、一方で教会からはあまりよく思われない風刺画なんかも描いていたんですね。このゴヤ、なかなか肝の据わった人物のようですね 異端審問にかけられたイネスは拷問されるが彼女の父はロレンソ神父を脅迫し、拷問による告白の真実を暴く。神が見ているから嘘などつけないなど所詮は欺瞞でしかない、ロレンソは身をもってそれを...... more
Tracked from 映画鑑賞★日記・・・ at 2012-01-16 17:11
タイトル : 宮廷画家ゴヤは見た
【GOYA'S GHOSTS】2008/10/04公開(10/04鑑賞)製作国:アメリカ/スペイン監督:ミロス・フォアマン出演:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ ...... more
Tracked from 映画@見取り八段 at 2012-01-16 18:57
タイトル : 【宮廷画家ゴヤは見た】ゴヤが家政婦ばりに活動します
ȥϸGOYA'S GHOSTS :ߥ�ޥ б:ϥӥ롦Хǥࡢƥ륹ɡʥ꡼ݡȥޥ :2008ǯ10 ϡGOYA'S GHOSTS ľȡ֥ͩsפǤ롣 ɤȡֲؤϸפߤˤʤ衣 òʥȥȡ̤˥ʤǤϤʤ ȸȡϥӥ롦ХǥवΤ餬 ȤäƤʻǡʤեʤääá ˹ԤʤäαDz衣 DVDվޤǤ ϡ ä פС䤬Dzǰ֤ȻפäƤ...... more
Tracked from 佐藤秀の徒然幻視録 at 2012-01-16 18:58
タイトル : 宮廷画家ゴヤは見た
公式サイト。原題:GOYA'S GHOSTS、ミロス・フォアマン監督、ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ・クエイド、ミシェル・ロンズデール。尋 ...... more
Tracked from だらだら無気力ブログ at 2012-01-17 00:13
タイトル : 宮廷画家ゴヤは見た
スペインの天才画家ゴヤが活躍した時代を背景に、ゴヤの目を通して 少女と神父が辿る数奇な運命を描いた歴史ドラマ。18世紀末、スペイン国王カルロス4世の宮廷画家として活躍していた フランシスコ・デ・ゴヤ。彼に肖像画を描いてもらっていた裕福な商人の 娘であるイネ…... more
Tracked from シネマ・ワンダーランド at 2012-01-17 08:07
タイトル : 「宮廷画家ゴヤは見た」(GOYA'S GHOSTS)
米国の反体制活動を作品に象徴させた「カッコーの巣の上で」(1975年)や、反戦ミュージカル「ヘアー」(79年)、モーツアルトの半生を描いた「アマデウス」(84年)などの作品で知られる旧チェコスロバキア出身のオスカー受賞米映画監督、ミロス・フォアマン(77)がスペインの画家フランシス・デ・ゴヤを通して自由や平等など人間の本質に迫った歴史ヒューマン・ドラマ「宮廷画家ゴヤは見た」(原題=ゴヤの亡霊、06年、米・西、M.フォアマン&ジャン・クロード・カリエール脚本、114分)。この映画は激動の18...... more
Commented by desire_san at 2012-01-17 12:56
こんにちは。
私も、国立新美術館の「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」見てきましたので、興味深く記事を読ませていただきました。

「宮廷画家ゴヤ」という映画があるのを初めて知りまました。ゴヤがとういう人かを考えるうえで、大変勉強になりました。
ありがとうございます。

私もゴヤの作品の感想とスペインの歴史との関係について書いてみました。ぜひ読んでみてください。

どんなことでも結構ですから、ブログにコメントなどをいただけると嬉しいです。

差支えなかったトラックバックさせてください。私のブログへトラックバックいただけるとは大歓迎です。
Commented by MIEKOMISSLIM at 2012-01-17 22:28
desire_sanさん、初めまして。記事を読んでいただいて、コメント有難うございます。

この作品は、直接ゴヤ自身にスポット、という訳ではなかったですけれど、ゴヤ作品の題材の時代背景、製作スタンス、一部製作過程、

実在したカルロス4世夫妻とのやり取り、など織り込まれていて、ゴヤ展を見てきたばかりでもあって、ドラマ化映像での復習、解説、のような味わいもありました。

そちらのゴヤ展の感想の記事も拝見して、先程この記事とゴヤ展の記事を、トラックバックお送りしました。宜しかったら、そちらからもいただければ嬉しいです。後程そちらのコメント欄に伺います。
by MIEKOMISSLIM | 2012-01-14 23:27 | 洋画 | Trackback(7) | Comments(2)