2012年 06月 25日
あ・うん(’89)
これは私は未見、高倉健、冨司純子、富田靖子、という顔ぶれにも興味そそられて、という所でしたけれど、これは故向田邦子さん脚本のTVドラマの映画化、小説版は後で本人によって書かれたようで。
例によって上映前に、上映室に陳列あった関連図書の中から、「あ・うん」文庫版をとって、最後の解説をざっと見たら、山口瞳氏の文で、どうやら中年の男同士の友情ベースの話、向田邦子が女性なのに、そういう心理を突いて描いてるのに驚き、のような箇所も。
上映開始数分前に座席は満席になって、何人か係りの人に入場をやんわり断られ、立ち見の女性が一人、この会場で、今まで経験した一番の入り。
注目の面々、健さんはやはり渋かったし、この作品で、出産で休んでた映画復帰したのだった富司純子、先日「山桜」で見かけたのだったけれど、約20年前、さすがにしっとり若やいでて、やや弾けてはいてもある種の品、
「BU・SU」の2年後だった富田靖子、もやはり若く。時代は1930年代後半で、彼女演じる水田さと子と、彼女の見合い相手、ではあったけれど家の都合で破談になった石川(真木蔵人)との恋、
喫茶店での逢瀬もままならない当時の風潮、そうする内に彼に召集令状が来て、という軍国主義や戦争の影、のような切なさとかはあったけれど、
大筋のお話自体は、まあ、男同士、その妻達や他の女性を巡って、また付き合い方の”あ・うん”の呼吸、ドタバタシーンもあったり、滑稽、コミカルなノリもある展開、だけど、正直余りしみじみした友情物語、という後味も残らず。
中小企業社長の羽振りがいい門倉(健さん)と、彼が世話を焼く地味な会社員の水田(坂東英二)一家、2人のキャラクターは、何だか役柄的にイメージが逆?のような印象も当初あったけれど、まあ見ていく内に、それなりに、という感じ。
どうも門倉と水田の妻たみ(冨司純子)は、ずっと仄かに好意を持ち合ってて、水田もそれを判ってて、という、実質三角関係、ではないけれど、2人のタイプの違う男性に挟まれた女性、の様相は、ちょっとサガンの「優しい関係」とか思い出したり。
まあ、門倉とたみの関係については、「優しい・・」の恋人のいるヒロインドロシーと若い青年ルイスとの関係も、だったけれど、終始プラトニックだった、というのが、話の”品”をとりあえず保ってた、という感じ。
6/25追記:そういう”男の友情”?の類の一環で、近年ふと垣間見た、ある男性のネット上で公然と展開する、何ら切実さや真摯さ漂わない不倫沙汰、
それに対して、周りの人間、主に男性が”暗黙の了解”を示して相手の女性と応対してるような雰囲気は、どうにも気持悪かった。
それは、実世界でなくネット上での麻痺感覚、とか、その男性との利害関係とかもあって、そういうものを見たら通常傷つくでだろう、その妻自身や、妻とそういう人達との関係のあり方、も影響するかもしれないけれど、対等な”男の友情”的には、少なくとも一切ノータッチ、が本筋、
そういう意味では劇中、水田家に泣きついてきた門倉の妻君子(宮本信子)と共に、門倉と芸者まり奴(山口美江)の逢瀬の家に乗り込んで、門倉に「女(か女房だったか)を泣かすな!」と罵倒した時の水田、というのが、納得の行動、という感じ。
まり奴は、門倉の娯楽の折での紹介で出会った水田が、彼女に傾いていきそうな気配もあった因縁があったけれど、門倉が、自分がまり奴を店から引かしたのは、
あのままでは女性関係に免疫なく不器用な水田が彼女に執心して、たみが辛い目に遭いそうだったから、などというのは、
多少なりとものたみへの援護射撃、という本心もあるにしても、水田(世間)への自分の浮気の詭弁、に聞こえて、”あ・うん”の行動、というには何だか鼻白む、というか。
たみへの仄かな純愛、的なメンタル部分はまだしも、家でフランス刺繍が趣味の君子を、あれは飾り物だから、などと軽んじて、公然と芸者を囲う、健さんのそういう役、というのは、やはり余り見たくなかったし、
そういう意味では、やはり多少地味でも健さんの水田、坂東英二の門倉、の方が良かったかも、とも。
そういう女性絡み関係を省いても、羽振りいい門倉が水田(一家)の面倒をみる、という図式、その代わりに、門倉も、水田から感謝交じりの素直な友情を受け、たみの好意、
自分には子供がいないようで、さと子からも無邪気に慕われ、心情的に満たされる、というバランスだったと思うけれど、終盤、そういうバランスも危なっかしくなって、2人の間も決裂。
水田がジャワへの転勤を受ける方向、という段になって、門倉がふらりと別れを惜しみにやってきて、一家との絆を持ち直し、と、色々あったけれど友情復活、のハッピーエンド的、にまとまってはいて、
旅館の番頭(大滝秀治)が、水田夫婦を駆け落ちのカップル、門倉がそれを追ってきたたみの夫、と勘違いして一騒動、3人はそれに受けて大笑いシーン、とか何処か可笑しみはあっても、
何だろうか、やはりどうも不倫沙汰への鼻白み感、というのが引っ掛かって、この話を、人情的に味わい、というモードにはなれなかった、という所。
健さんが今回一番ダンディに思えたのは、そういう男女間の狭間、でなく、召集令状のことを水田家に告げに来て、去った石川の後を、さと子に追わせたりした男気。
この作品を手掛けてたのは、健さんとよくタッグを組んできた降旗康男監督、私は降旗作品は「憑神」以来、その前が、同監督が日本シーンを担当してた健さん主演の「単騎、千里を走る」で、
このコンビで8月に公開の「あなたへ」という作品が、「単騎・・」以来の健さん出演、また主演作のようで、先日「虹色ほたる 永遠の夏休み」を見に行った時、
劇場に、その公開に寄せて健さんからのダイレクトメッセージ、としてB4強のサイズで3回分2枚、日経新聞電子版より転載、というチラシがあって、1回はお母さんの思い出の内容で、その最後に、この「あ・うん」撮影中、91才で亡くなった、という旨があったのだった。
(C)日本経済新聞
で、他の2回分には、3.11からの思い、これまでの作品撮影での苦労、俳優人生など綴られてて、直接「あなたへ」の内容には触れておらず、母題材の作品か、と思ってたら、
夫婦愛を描いたもので、妻への思いを抱いて旅する主人公のロードムービー、のようで、そういう真っ当路線での今の健さんの渋味、というのもちょっと興味。
そういう所で、若い日の健さん、冨司純子、富田靖子などの顔ぶれは楽しめたけれど、という作品でした。
関連サイト:Amazon 「あ・うん」、成田図書館 映画会、象のロケット 「あ・うん」、高倉健のダイレクトメッセージ
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