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Something Impressive(KYOKOⅢ)

かぞくのくに(’12)

10日(日)の「キネマ旬報」イベント、「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」「ニーチェの馬」に続き3本目上映は、日本映画ベスト・テン第1位の「かぞくのくに」でした。

在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督作、イベント記事で触れてたように、表彰式で、本人は中年の女性、そしてこれは実体験を元にした作品で、同監督が劇中の安藤サクラが演じたヒロイン、リエに当たる立場、と判った次第。

未解決の拉致問題、最近も実際、核実験などで問題視されてる北朝鮮、という国の、どうにも意味不明さ、が浮き彫りになるような、民間レベルの出来事のドキュメンタリー色、でもあって、なすすべもなく、その意味不明さに翻弄される人々、

やはり「ニーチェの馬」程でなないにしても、希望の持てにくい何ともグレイな終焉の仕方、で、これまた華やぎ、はなく、渋さというかある種の重苦しさ。

在日コリアン監督作の、これが邦画1位、とは、再度さすがに「キネマ旬報」、という感じだけれど、この作品って、今回のアカデミー外国語映画部門の日本代表にもなってたようで。


日本に暮らす朝鮮人家族、父(津嘉山正種)、母(宮崎美子)、リエの元に、70年代帰国事業により北朝鮮に渡っていた兄のソンホ(井浦新)が、病気治療のため、25年ぶりに帰国。

その許可を取るのに5年かかってやっと、しかも期限は3ヶ月のみ、また日常生活を本国から同行のヤン(ヤン・イクチェン)による監視付き、というシビアな状況。

検査を受け、その結果も、医師から3ヶ月の滞在では、と治療に難色を示される中、何日も経たない内に、同様の事情の他の来日朝鮮人達共々、いきなり本国からの有無を言わさずの理由不明の帰国命令、心かき乱される人々、という、何とも理不尽な物語。

その実話ベースの民間レベルでの理不尽さが、ニュースで折々伝えられる、何をしでかすのやら、というその国自体の得体の知れなさ、不穏さ、と繋がって、これまたどうも、「ニーチェの馬」とはやや意味合い違うけれど、砂を噛むようなザラついた後味。


2/25追記:俳優陣は、コリアン系は監視役ヤンを演じたヤン・イクチュンのみ、あとは北朝鮮人達役は皆日本人俳優、スタッフも日本人ばかりのようで、

日本でこういう映画を撮るヤン・ヨンヒ監督は、「ディア・ピョンヤン」というドキュメンタリー作品以降、北朝鮮への入国を認めらてない、とのことで、

インタビューで、本国側から、映画制作を止めたら家族に会わしてやる、のような圧力、という話もあったけれど、まさにそういう、現実的な身辺の摩擦を代償にしての、祖国の理不尽さ題材作品製作、というのも、リアル感。


ソンホ役の井浦新は、後で元ARATA、と判って、昨年から本名を芸名にしてたのだったけれど、そう言えば、という風貌だった、と。

まあ劇中の言葉も日本語が多く、見た目も同じアジア系、日本人が演じる在日コリアン達、にそう違和感はないのだけれど、

祖国でハードな日常を積んできたのが偲ばれるソンホが、顔馴染みのコリアン達との店での同窓会で、ビリー・バンバンの「白いブランコ」を懐かしがって歌うシーンがちょっと印象的。

        

この曲自体、そしてビリー・バンバンも懐かしく、昔家に、この「白い・・」はどうだったか、だけれど確か「さよならをするために」のシングルはあって、あれもいい曲だった、とか思い出したり。

北朝鮮のポピュラーソングってどんなものか?不明だけれど、こういう優しく牧歌的なテイストのものって、どうも想像しにくいイメージ。

なので、ここら辺の細かい所も実話ベースかは?だけれど、仲間達とああいう場で、祖国の歌、でなく日本のフォークを歌う、という心情が何だか切なくもあり。


2/26追記:その他印象的だったは、リエがソンホから、スパイ業務の話を持ちかけられて拒絶した後、その憤りを、外の車にいたヤンにぶつけ、

ヤンが、あなたが嫌いなあの国で、自分達は生きるしかない、のような言葉を残して、去ったシーン。

実際は、ヤンのような密着監視人、というのはさすがにいなくて、映画のための設定だったらしいけれど、ソンホに付きまとう影のような存在、まるで北朝鮮の化身、のような印象だった彼が、搾り出すように呟いたそういう言葉。

また、突然の帰国命令に、戸惑い混乱、義憤にかられるリエ達と対照的に、ソンホは、こういうことってよくあるんだ、思考停止状態になって、楽だぞ、何も考えないでいるのは、などと諦め気味に語るシーン。

内心のどうにもやるせなさ、というのは、ラスト近くの、空港への車に乗った彼の手をなかなか離そうとしないリエとの、別れ際、一旦車から降りて、無言でリエの手を握り返す、彼自身の仕草にも滲み出てた気がしたのだけれど、

”その国”で、その体制下で、生きていくしかない市井の庶民の悲哀、というものの断片を垣間見た、という感覚。


それと、ソンホを送り出す前、母が、ヤンに対して心配りをして、スーツなどを用意、それに添えた、ソンホを宜しくお願いします、私は祖国を信じるしかないのです、というような内容の手紙。

父が在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)幹部、とはいえ、政治的手段を持たない、家族が祖国にいる市井の在日コリアンの人々にとっては、”その国”がいかに理不尽、不穏でも、ただ祈るしかない、という状況。


何だかいくらフィクション、とは言っても、こういう状況でさすがにこういう科白はないだろう、という作品もあるけれど、

ヤン・ヨンヒ監督自身がこの作品の脚本も手掛けたそうで、まあ実話ベース、ということもあってか自ら身をもって積んできた在日コリアンとしての現実的な憤懣、苦い体験、というのが登場人物の折々の言葉や仕草に滲み出てるような。

だからこその、明るい希望持てにくい終焉、グレイなどんより感は残りましたけれど、これもまた「ニーチェの馬」のように、窮地の状況ではあっても、ある”家族の物語”としては、真摯な作品、という後味でした。

関連サイト:キネマ旬報ベスト・テンAmazon 「かぞくのくに」象のロケット 「かぞくのくに」
関連記事:2012年 第86回 キネマ旬報ベスト・テン 第1位映画鑑賞会と表彰式ソラニン(’10)ハナミズキ(’10)TAKESHIS'(’05)櫻の園(’08)ゲルマニウムの夜(’05)まほろ駅前多田便利軒(’11)七夜待(’08)マナに抱かれて(’03)春の雪(’05)NANA(’05)ミラクルバナナ(’05)RAILWAYS 49歳で電車の運転手になった男の話(’10)どら平太(’00)さよならみどりちゃん(’04)西の魔女が死んだ(’08)
<スレッドファイルリンク(ここでは「ゲルマニウムの夜」「NANA」)は開かない場合あるようです。>

   
   
Tracked from 象のロケット at 2013-02-26 14:50
タイトル : かぞくのくに
北朝鮮に住む兄ソンホが、日本で暮らす両親と妹リエの元に、25年ぶりに帰ってきた。 彼は1970年代に帰国事業で北朝鮮に移住したが、病気治療のために3ヶ月間だけの帰国を許されたのだった。 常に故国からついてきた監視の目がある中、16歳の時に別れた友人たちと再会を祝い、病院で検査を受けるソンホ。 しかし、3ヶ月では責任をもって治療できないと言われてしまう…。 ヒューマンドラマ。... more
Tracked from あーうぃ だにぇっと at 2013-03-01 23:01
タイトル : かぞくのくに
かぞくのくに@スペースFS汐留... more
Tracked from 佐藤秀の徒然幻視録 at 2013-03-01 23:30
タイトル : かぞくのくに
公式サイト。ヤン・ヨンヒ(梁英姫)監督、安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、諏訪太朗、宮崎美子、津嘉山正種、大森立嗣、村上淳、省吾、塩田貞治、鈴木晋介、山 ...... more
Tracked from 見取り八段・実0段 at 2013-03-02 00:27
タイトル : 【かぞくのくに】「地上の楽園」は何処にも...
北朝鮮帰還事業で「楽園」に渡ったはずの兄との25年ぶりの再会。家族は自由のないその生活を改めて思い知る。淡々とした物語の中に考えさせられることが多い作品。★★★★☆(5点満...... more
Tracked from もっきぃの映画館でみよう.. at 2013-03-02 00:40
タイトル : かぞくのくに ヤン・ヨンヒ監督は、フィクションでもすごい..
【序】 個人的に興味のある北朝鮮、ヤン・ヨンヒ監督のドキュメンタリー 「ディアピョンヤン」を見ていたこと、井浦新、安藤サクラ主演 ということで、この夏一番の期待作。見事期待に応えてくれました。 【ストーリー、gooから要約】 1970年代に帰国事業により北朝鮮へ...... more
Tracked from とりあえず、コメントです at 2013-03-03 17:54
タイトル : かぞくのくに
帰国事業で日本から北朝鮮へ移住した兄と、彼の帰りを待ちわびていた家族の姿を描いた作品です。 最近、気になっている安藤サクラ&井浦新の二人が主演ということで楽しみにしていました。 妹の立場だったヤン・ヨンヒ監督自身の体験をもとにした物語に、胸が締め付けられました。 ... more
Tracked from dezire_photo.. at 2013-03-07 17:55
タイトル : お台場・晴海ふ頭から見た東京夜景色
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Commented by desire_san at 2013-03-07 17:54
こんにちは。
日本映画ベスト・テン第1位の「かぞくのくに」のお話、興味深く読ませていただきました。
むずかしい人間のテーマを扱った作品ですすね。
井浦新は、こういう難しい役を好んで演ずる俳優さんですね。
私も、この作品は一度是非見たいと思いました。
by MIEKOMISSLIM | 2013-02-24 01:55 | 邦画 | Trackback(7) | Comments(1)