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’09年1月末AOL映画掲示板、ブログが終了、気分新たにマイペースで、音楽・芸術鑑賞、ユーミン関連、読書、英検1級対策、グルメ、仕事等含めて書いてます。英検は’11年11月に無事合格達成出来ました!

by MIEKOMISSLIM

冬の旅人「高倉健の肖像」(’88)

先日、成田図書館での映画会で「冬の華」上映の際、展示のあった関連図書の中の、健さんを描いた画集。

その時借りて、記事にするまでは、と、引き続き継続で手元にあって、書いておきたいと思います。


「冬の華」記事で触れてたように、画家は、「夜叉」で健さんの刺青の下絵を担当したのが縁、という福山小夜で、表紙に沢木さんが文、とあるのにも目を引かれ、開いてみたら、冒頭に「恋、と呼ばずに」という文。

内容は、様々な画材での、映画のワンシーンらしき、またプライベート風の健さんの姿47枚。1辺30cm余りの正方形、表紙もスキャナー画面目一杯でも、右端が切れてしまう大判。

福山小夜が3年余り、健さんの絵を描き続けたものらしいけれど、思えば、スターの写真集は数あれど、こういう風に、一人の画家が一人の俳優をじっくり何枚も描いた画集、というのはどうも覚えなく、こういう健さん本があったんだ、と。

何だか、一時の借り物ではあるのだけれど、今部屋にあるこの本が目に入るだけで、改めて”健さん”という表現者としてのストイックな存在感に、ある種の無節操さへの不快感から、心洗われる、という1冊。


a0116217_23553855.jpg4/2追記:冒頭の沢木さんの4ページに及ぶ文中、沢木さんは、自分のエッセイが載ってた雑誌で、たまたま多分この中の7点の健さんの絵を見て、

とりわけ印象的だったのが、この画集の最後の、眼鏡をかけた健さんが本を読んでいるところを描いた絵(「零時」(C)集英社→)だった、と。


そして、それが初対面だったのか、面識あったのか?、それより以前に、何かの企画でか、健さんと映画に関する雑談をするためホテルで会った時のことが書いてあって、

健さんに、今どんなことをしてるのか聞かれて、キャパの自伝の翻訳をしてる、と答えてて、キャパはどういう人か、と訊ねられ、どう答えたらいいか困った沢木さんは、

休息にロンドンで、恋人のピンキーと再会、ホテルにシャンパンを用意して楽しい時を過ごそうとしていたけれど、戦場での事態が急変すると、ピンキーとシャンパンを残して戦場に向かってしまった、という話を披露。

そしたら健さんは、「どうしてなんでしょうね」・・「気持ちのいいベッドがあって、いい女がいて、うまいシャンパンがあって・・どうして男は行ってしまうんでしょうね」などと呟いて、

>私が何も答えられないでいると、彼はひとりで深く納得するようにまた呟いた。
「でも、行っちゃうんですよね」
私には彼のその複雑な響きの籠もった呟きが心に深く残った。

 雑誌に載っていた彼の絵は、私にその時の呟きを思い起こさせた、しかし、それがなぜなのかはよくわからなかった。<

というエピソード。


4/4追記:この文章後半でも、この健さん肖像画展で、再びこの絵を見た沢木さんが、他の絵とは明らかに異なる重層性が感じられ、

それが一体何に由来するものなのか、ぼんやり考えてるうちに思い出された1枚の写真、それが、キャパの写真、だった、と。

'42年に撮られた、キャパが、手にシムノンの小説を持って、素裸でバスタブにつかっている写真で、健さんの絵とは似ても似つかぬ行儀の悪い読書姿だけれど、奇妙に2つの像は似ている、とのことで、

キャパは、毎朝、湯につかって何時間もバスタブで本を読む習慣があって、それはまるで、元の貧しい若者、本名アンドレ・フリードマンから、ロバート・キャパという「役」に入るための、一種の儀式のようであった、とか。

そして、沢木さんは、健さんの絵も、それと同じ種類の2重性によるものではないか、と気付いて、

>高倉健はもちろん役者としての名前である。その高倉健は役者として実に無数の役を演じてきたが、同時に高倉健という役をも演じてきたはずなのだ。

展示会場の絵の中には、高倉健が演じているさまざまな役柄の高倉健と、高倉健を演じている高倉健がいた。

しかし、あの読書姿の高倉健には、高倉健を演じている高倉健と高倉健の向こうにいるもうひとりの高倉健とが同時に存在しているような不思議なところがあった。< などと指摘。

健さんとキャパ、というのは、およそ接点なさそうな伝説的存在だけれど、そのそれぞれの素顔~役柄間を漂う微妙な一瞬を捉えた絵と写真が、沢木さんの脳裏でシンクロ、というのも、ちょっとした趣が。


4/7追記:沢木さんは、

>それにしても、どうしてこの絵の描き手は、本名と別名を持った人物の、本人と本人が演じている「役」との間に存在する薄い皮膜に触れることができたのだろう。<

と思い、会場にいた福山小夜に、なぜ描こうと思ったのか、と話しかけたら、

>初めて会った時、この人はこういう人だと、初めてタカをくくらないですむ男性に会うことができたのだ、と彼女は答えた。あの人はどういう人なのだろう、それを知りたくて、描きつづけてきたのだ、と。<

会ったのはほんの2,3度、でも健さんを知るために、いろいろ本を読んだり、映画も全て見た、そうで、沢木さんは、文章で肖像を描く過程と同じように、彼女もまた徹底的に取材したのだ、と。


本に折に挟まれているこの画家の短い文の中で、一番印象的だったのは、

>健さんを 慕ってる人って いっぱいいる
 懐が深いからだと思う
 でも この <懐が深い>という言葉には ふたつあるように思う
 ひとつは 健さんの中にある 人の心がよくわかってしまう優しさ
 もうひとつは 逆のようだけど
 自分の信念を屈することなく 最後まで貫き通す 強さ
 だからこそ みんなが 健さんに 深く魅せられてしまうのだと思う<

という所。健さん、という存在の巷での人気のミソを突いてる気がする。この人もまた、健さんと面識はあっても、この本で知る限りは純粋な大”ファン”の一人、

ただ、沢木さんに文章、という才があるように、この人に画家としての才があったので、”健さん”を描く、という手法で追求できた、という、

何だか、著名人に、明らかに肉体関係、利害関係絡みで群がる女性、に比べたら、その思いの表し方が、何と真っ当に崇高な、と思う。そういう点も、何だか、いまだ傍らにあるこの本に、心洗われる、という一因。


また沢木さんの文の最後に、この人の、

>肉体の尊厳というものが宿った時、人は美しさと、感動を与えられるものだと気づいた。その姿から放たれる神々しいような光に力強いエネルギーを見た。

それを感じた時、はじめて、自分の存在がいかに小さなものかを知った。その気持ちよさが、私という女を、素朴で純粋なものにかえた。この人を描きたいという気持ちだけが生き生きと輝き出した。<

という言葉が引用されてて、沢木さんは、

>この思いを何と呼ぼうか。・・・少なくとも才能とは別の、ひとりの人生のうちでもそう何度も訪れることのない感情の力が、彼女を思いがけないほど遠くまで行かせることになったのは確かなことのように思えるのだ。

恋と呼ばずに、しかしその思いを何と呼ぼう・・・。<と締め。

一人の女性画家に、3年余り、その姿を描かせ続けた、ある種健さんの”人”また”男”としての魅力凝縮の1冊、という感触も。


a0116217_2336381.jpg私は、この画集の中では、唯一セクシュアル感漂う、2枚の健さんヌードの後姿の「野生」「あこがれ」も、ある種インパクト、

沢木さんの挙げた読書姿の「零時」もじんわりくるけれど、

一番印象的なものを挙げるとしたら、油彩の「祈り」、特にその健さんの表情のアップ(←(C)集英社)。

何だか、「零時」が、沢木さんの言うように、高倉健を演じている高倉健と高倉健の向こうにいるもうひとりの高倉健とが同時に存在している絵だとしたら、

こちらは、もうひとりの高倉健を内側に秘めてる高倉健の静かな凄み、のような空気が漂ってる気がしてちょっと感慨で、この姿にも、何だか、ある種不要な煩いから心が浄化されるような、という思い。


そういう所で、思いがけず、健さん映画上映会で発見のこの画集。

ちょっと検索してる内に、健さんと沢木さん、というのは、沢木本「貧乏だけど贅沢」で対談してたり、文庫「深夜特急2」の巻末でも対談、があったのだったけれど、

たまたま先日、沢木さんがキャパを取り上げた番組を見た後で、25年前出版のこの本の文中でもキャパ登場、健さん~キャパ、というちょっと意外な繋がり、とか、目に留まった「零時」という絵に対する、沢木目線での斬り方も、プラスαで味わえたり、

福山小夜、という初耳だった画家が描き留めていた様々な、健さん、という唯一無比の存在感のオーラ、魅力改めて、という1冊でした。

関連サイト:Amazon 冬の旅人「高倉健の肖像」
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          (C)(株)集英社(「追憶」)
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by MIEKOMISSLIM | 2013-03-31 23:10 | 芸術・映画 | Trackback | Comments(0)
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