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人の砂漠(’10)

先日チェックした「人の砂漠」(’77)映画化作品を、一昨日新宿バルト9で見てきました。これは4話が独立したオムニバス、たまたま「ニューヨーク・・」に続いて短編集でしたが、こちらは日本の実話ベース、やはり根底には人情・愛情漂い、またうごめいていても、アイラブユーの響きは似合わない、頑な、偏見、壮絶、やりきれなさ、プライド、滑稽、頑強、悲哀等、やはり社会の片隅の”地の漂流者”の断片でした。

「屑の世界」「棄てられた女たちのユートピア」パートに、原作の、実際仕切場で働いたり、施設を訪れる、沢木さん自身に当たる人物が登場せず、4編とも、登場人物、その家族構成や内容も、そう原作に忠実という訳ではありませんでした。

★冒頭の「屑の・・」は、その核になる沢木目線のなさで、最初やや落ち着き悪く、内容も、仕切場に出入りする様々な人々の人間模様、の原作に対して、作品では、その仕切場が、地域の治安の病巣のような扱われ方で、区から立ち退きを迫られ、盗品を扱わない、と筋を通してきた親方の心も荒んできて、と、社会の邪魔者としての描き方が、端的すぎな気もしたのですが、

後で公式サイトのプロダクションノートを見ると、舞台は原作通り江戸川沿い、でもその30年後の今の仕切場を描きたかった、とのことで、元の両親と3人の子供、の代わりに親方と孫の設定だったのかもしれませんが、親方役石橋漣司の存在感、その姿勢を見て、心情的に寄り添っていく家出してきた孫(黒木辰哉)軸に、それなりの物語だった感でした。

★次の「鏡の調書」は、やはり、着物姿の詐欺師老女役夏木マリの物腰はほぼイメージ通り、原作通りの人々の疑惑を誤魔化すハッタリ言動、でも、短編だし難しいかもしれないですが、老女が、詐欺はしつつ、人恋しさからか、自腹を肥やすのでなく、キップいい振る舞いで人々に馴染んでた描写は希薄で、終盤老女を問い詰める辺りも、どうも集団でバタバタと、漫画的。

でも、老女を介して土地と家を入手、と夢見て、尊敬の眼差しを向けていたスーパー勤務の女性(黒沢あすか)だけは、老女を守ろうとするものの、逆切れした老女が彼女に激しく「欲しい物は何としても手に入れるんだ、お前なんて薄汚く死ねばいい!」等と言い放ってた部分は、原作にはなく、老女が罪を犯してなければ、慣れ親しんだ者に対する乱暴な本音の憤慨・叱咤、ととれなくもないですが、頭に残った所。

この、原作では漬物屋で働く女性からだけは、結構手酷いお金の巻き上げ方で、「自ら動こうとはせず、ただ”僥倖”を待ち、身を摺り寄せる、そのような女には、片桐(原作での主人公)は耐えられなかったのかもしれない」というような部分があり、何だか沢木さんの書き方自体に、やや引っ掛かりを感じた箇所でしたが、そういう所を汲み取ってあのセリフに凝縮、という感じでした。

この老女は、若い頃結婚の約束をした相手に裏切られ、自暴自棄になって盗みをしてから、道を踏み外していった、という経緯、数奇な運命を、嘘で固めて単独生き延びて、この女性への仕打ちがなければ、ユニークなバイタリティで悪意、というよりやや滑稽なも悲哀も、ですが、この女性は、当時沢木さんが訪ねても、事件については話さないと決めてしまったんですよ、と、心閉ざしてひっそり暮らしていたようで、

やはり人を騙す味をしめ感覚麻痺したこの老女が、いくら気弱で受身でも、周囲に迷惑かけず真面目に働く女性、しかもその性格と夢に付け込んで、言葉で弄び詐欺の餌食にして傷を負わせた相手に、逆に罵倒されこそすれ、その生き方の、何を非難する権利が?という感で、いくらある種のバイタリティあっても、サイトにあった製作サイドの、この老女の”ロックな生き方”というそもそもの捉え方には、どうも違和感ありました。

★3話目の「おばあさんが死んだ」は、原作では老婆と同居の兄が、息子にアレンジされ、それはそれで、ですが、何分、どう見ても病身の息子(忍成修吾)が高校生~20代位にしか見えず、その祖母ならまだしも、母としては、あの室井滋の終盤の老け方はどうも不自然だし、

また、歯医者を首になったからといって、なすすべもなくあそこまでの生活苦、というのは、冒頭溌剌と自転車に乗ってたせいぜい中年女性姿からは、結びつきにくく、やや興ざめ。

区の職員に対する徹底した頑なさ、その反面の、閉じた世界での息子への溺愛を見せた室井滋は、学生時代自主制作でこの「おばあさん・・」を演じようとした、という因縁の役だそうで、怪演というか熱演ぶり、でしたが、祖母ー孫の設定なら、もう少し年配の女優、また息子ならせめて中年位の設定、そういう年代の俳優で見たかったと。

★ラストの「棄てられた女たちのユートピア」が一番印象的、やはり原作にはない悲劇的事故が起こったり、寮の女性の家族が登場したりして、心を病んだ女性香織(中川梨絵)の、離れた子を思う純粋さ、でもその病故に、その死に際してさえ疎ましがる家族(世間)、というギャップ、落差の構図ががやはり露骨な気もしたのですが、

プロダクションノートでは、製作側が実際の施設に出向いて映画化申請、またシナハンに行った時、沢木さんが訪問の頃より高齢化で、亡くなった女性も多く、家族に連絡しても遺骨を取りに来ないし、火葬場で遺骨の引き取りを拒否したり、というケースもあった、というような世知辛い現状を折り入れているシナリオと判りました。

原作では、沢木さんの若い目線もあってか、施設長に、確かに「平安」はあっても、彼女達はここにいて、幸せなんでしょうか?という問いかけ、また、最後の方で、「彼女らは人間として復活するのと同じように、あるいはそれ以上に女として復活したいのではないか」というようにありましたが、

女達の中で、心は荒みながらも、よく施設を脱走、ある種の力を持ついちこ(小池栄子)のラストの身の振り方は、そういう部分を汲み取った演出かと思われました。

このパートには、寮生の中の世話役要的なチュン子役でりりィの姿があって、劇中、施設の礼拝堂のオルガンで、昔母に教わった、といってある曲をいちこに弾いて、それを外で耳にした香織のある種の感情を呼び覚ましてしまって、悲劇が、という流れもあったのですが、そのメロディは、完全に覚えはあっても、曲名と歌詞は出て来ず、

後で、口伝えでハミングして母に聞いたら、多分賛美歌か何かで、教会の結婚式で何度か聞いた覚えがある、と、何パターンかあるらしい中の1つの一番の歌詞は覚えてたのですが、やはり曲名は知らず、その歌詞をメモして冒頭の「暮れゆくみ空に 落ちゆく夕日」等で検索してみましたが、どうも出てこず。

その後、手持ちの古いホームソングの本に載ってた、と教えてくれて、曲名「星の界(よ)」で作詞:杉谷代水、作曲:コンバース、歌詞も母の覚えてたのとは一部似ているけれど別物でした。You tubeで検索したら、同じメロディで「賛美歌312番 いつくしみ深き」としてのもあって、やはり賛美歌、パティ・ページの英語版「What A Friend We Have In Jesus」等も見かけたりしました。


今回、俳優はプロ起用だし、やはりいっそそれぞれ職業監督作だったら、どう斬って仕上がったのだろうか、とも思いますが、若い作り手が、沢木さんが身をもって体験した世界と、その30年後の今の現状をリンクさせようとしていたり、発想の広がり、沢木目線への敬意、のようなものも感じられて、まあ普通に好感でした。
(C)新潮社
a0116217_15183113.jpgまた、原作に描かれてた、確信犯的無軌道というより、世間的な、何らかの物差しに当てはまらない、はまれない場所、人の、実際そこにいて、また会って初めて実感出来そうな切なさ、真実、だからこその独特な力強さや魅力、絆、またそれに対する偏見のいびつさ等もこの機に改めて。

「ニューヨーク・・」では街や人の有様が、躍動的スパイスでしたが、今回は違う意味で、外からは価値なく閉ざして見える空間に、思わぬ豊かさがあったり、広い世界、自分の足元の、当然のような健康、仕事、家族等理屈抜きの有難さ、等改めて感じたりという所でした。

原作の力と面白みは今でも色褪せてないと思うし、この作品にはパンフはないですが、せめて劇場売店に本があって、この機に読者が増えればいいのに、とは思いました。

関連サイト:http://www.fnm.geidai.ac.jp/hitonosabaku/main/
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                     <年代不明、煙樹ヶ浜にて>

by MIEKOMISSLIM | 2010-03-14 00:00 | 邦画 | Trackback(1) | Comments(2)
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Tracked from サーカスな日々 at 2010-11-06 03:38
タイトル : mini review 10499「人の砂漠」★★★★★..
ノンフィクション作家・沢木耕太郎による同名ルポルタージュを、東京藝術大学映像研究科の学生が映画化した4編からなるオムニバス・ドラマ。町の人たちをだまし続けた70歳の女...... more
Commented by kimion20002000 at 2010-11-06 21:21 x
コメントありがとう。
僕は今回は内容についてはコメントしないようにしましたが、感想や気になったところは、ほとんど
KYOKOさんと同じですね。
オムニバスに良作なしというのが定説ですが(笑)、このなかから次につながる映画人が出てきてくれれば、いいんですけどね。
Commented by MIEKOMISSLIM at 2010-11-07 02:33
kimion20002000さん、コメント有難うございます。
ハンドル名は今本名のMIEKOで、「KYOKO」は以前スレッド名にしていた村上龍映画で、名残でブログ名に入れてます。紛らわしくて恐縮です。
もし職業監督だったら、どう斬ったのだろう、とは思ったのですけれど、若い世代が今の時代、こういう沢木作品を選んで創った、という事は喜ばしいし、何かの形で生きたらいいですね。
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「KYOKO」は’02年に映画掲示板にスレッドを立てた村上龍監督、高岡早紀主演映画で、当ブログはそのスレッド、次のブログに続いての3代目です。マイペースで、長年ファンのユーミン関連初め音楽、美術展、仕事、グルメ(食事)、映画、本、日常、旅のことなどアップしてます。


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