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ジブリ創作のヒミツ~宮崎駿と新人監督 葛藤の400日

昨夜NHKで、「借りぐらしのアリエッティ」創作の特番放映、一部録画、一部オンタイムで見ました。ジブリ特番は、一昨年の「プロフェッショナル」での「崖の上のポニョ」製作中の宮崎監督密着以来、

米林監督は写真では見かけていても、初めての映像で、人となりや、作品誕生までの紆余曲折、細かい各シーンのこだわり、宮崎監督の今回の距離の置き方等、1時間15分でしたがなかなか興味深かったです。

米林監督は、「千と千尋の神隠し」の「カオナシ」のモデル、マロさんという愛称、と聞いていて、やはり風貌的にもずっとそういうイメージ重なりましたが、アニメーターという職人の立場からの初の監督業、でもあってか、スタッフに対してもそう表立った強い主張、という場面は見られず、おっとりやんわり。でもずっとマイペースな芯の強さも、という印象でした。

美大時代にCMアニメ製作を手掛け、自分の描いた絵が動く面白さに目覚めて、この頃出会った人生を変えた映画、というのが「耳をすませば」('95)だった、と。微妙な心情を表現する技術に心奪われて、大学を中退してジブリに入社、という経緯との事で、

「借りぐらし・・」終盤高台のシーン等は、何処となく「耳を・・」に似てる気もして感想で触れてたのでしたが、改めて、この監督デビュー作に、純愛テイストとか、色んな意味でルーツとして影響、またオマージュもあったのかも、と思いました。
                                    (C)(株)徳間書店
a0116217_12182058.jpg「・・ポニョ」でポニョが海から爆走、のシーンを描いて高い評価、との事でしたが、今回、「千と千尋・・」での千尋の両親の大食いシーンや、「ハウルの動く城」のハウルと出会った直後の戸惑うソフィ、等もそうだったのだった、と。

ポニョの勢いに呼応するように、1つ1つの波が魚になって、海が生き物のようにうねった躍動感、のユニークシーンも、久方に見て、裏方だったこの人が描いたのだった、と改めて。

今回宮崎監督が、「「・・ポニョ」の時も、マロ式アニメーションが実を結んで、自分のアニメーションを作ったなって感じた」、と。そういう手応えもあったからこそ、鈴木氏と共に「借りぐらし・・」監督を任せ、しかも自分は製作に口出しをしない、という覚悟になれたのかと思いますが、

(C)二馬力・GNDHDDT
a0116217_4122679.jpgスタッフにへの説明会で、宮崎監督が(米林監督の)絵コンテは見てないし、と、そういう方針を告げて、「マロに全て託してですね、ジブリが沈むも浮くも・・」とエールを渡した所で、

傍らの米林監督が、「そんなこと託されても困りますよ」と苦笑いする様子が、アットホームな中、とはいえ内心相当プレッシャーとしても何だか漂々とした印象でした。

(←一昨年、ローソンで「ぴあ」を買ったら付いてきたのだったか、ポニョファイル。アピールシーンの1つだったのでした。)



冒頭、案内役の広末涼子のいるスタジオに、様々なアリエッティのイメージボードがあって、オカッパの幼女のような姿や、原作挿絵に似たおさげ髪だったり、かなりボーイッシュで、絶滅の危機にある小人族を救うイメージ、というものも見られ、

企画によっては、ナウシカや「もののけ姫」等のようなテイストに、という可能性もあったようで、やや意外でしたが、結局、そういう壮大な構想、というより、原作テイストにほぼ沿った物語、そのキャラクター、に落ち着いたようで、何だかそれは良かった、と。

そして、宮崎監督の演出方針の小人と人間の心の交流、から、さらに米林監督が踏み込んだのは、翔とアリエッティの恋物語、で、アリエッティの翔への気持は、部屋で姿を見られて話しかけられ、ポッドと共に無言で去って行く時、一瞬下を向いて戸惑いの表情を入れて、余韻を残したり、という部分でも醸し出そうとしたようでしたが、

印象的だったのは、今回一切口を出さず、傍観していた宮崎監督が、唯一間接的にですが異を唱えた、アリエッティが、「(ホミリーを)一緒に探そう」と言ってくれた翔の、掌に乗って肩まで運ばれるシーン。

(C)(株)岩波書店
a0116217_21111970.jpg宮崎監督にすれば、そうすることで、アリエッティが”愛玩物”になってしまう、と危惧したようで、それは、原作終盤での、危機的状態にあっても、ポッドが頑として、少年の手で避難所に運ばれる、という事を拒絶、そうする位なら野ネズミに食べられた方がまし、という、借り暮らし小人族なりの、譲れないプライド、という部分が根っ子にある感がしたのですが、

そういう意味では、アリエッティは、ホミリーが消え、人間に捕えられてしまったらしい状況で、迷いなく翔の元へ出向いて窮状を訴え、思い切り泣いて感情を爆発させて、という時点で、そもそも小人族としてのプライド、よりも、自分の一少女として素直に翔を頼る気持ち、を無意識にか選んでいるし、

そういう彼女の能動的な行動は原作にはなく、それはどちらの監督の案か?判りませんが、その流れで、翔が手を差し出すのも、アリエッティが掌に乗るのも自然、と、米林監督は、師匠の異例の異議に少し戸惑いつつも、自分の意志を貫いて、アリエッティの決意を表すため、掌に乗る前に、短くうなずきを加えた、という流れだったのだった、と。

小人族の誇り、歩み寄りはしても、人間との譲れない距離、が念頭にあった宮崎監督と、種族は違っても素直な少年と少女の純愛、を描こうとした米林監督との違い、という気もして、番組中何だか一番頭に残った裏話でした。

8/12追記:製作終盤、俳優陣が科白を入れる時にも、このシーンで、翔役神木君の「一緒に探そう」という語りかけが、「子供に言ってるみたいで、もうちょっと誠実な方がいい」、他のスタッフと共に「「男」、ですね」、等とダメ出ししていて、翔とアリエッティの恋心、を前提にした自然さ、を出そうとしたのが伺えました。


でもこのシーン以外は、宮崎監督は今回当初告げたように傍観、口を出すのは控えてたようですが、その一因は、故近藤喜文監督の思い出だった、と。

a0116217_173037.jpgジブリ作品の絵を色々手掛け、「耳をすませば」が唯一監督作、割と若くして亡くなった、という記憶でしたが、宮崎監督とはアニメーター時代からの先輩・後輩で、自分が脚本を書いて「耳を・・」の監督に抜擢、

でも宮崎監督が、何度か新人に作品を手掛けさせてはそうしてきたように、現場に乱入、口を出して、2人は衝突を繰り返し、作品は高く評価されたものの、近藤監督は,元々の病弱さに激務が祟って、作品完成の2年後他界してしまった、との経緯だった、と。

「耳を・・」は、私は挿入話の背景の井上直久の絵(↑↓)のファンタジックさ等もあって、好感度高めでしたが、その裏にはそういう葛藤、また、ある意味近藤監督の命と引き換え、とまでも取れそうな作品だった、とは今回知りました。

a0116217_173093.jpg宮崎監督には、その時の事が「(近藤監督は)あれが終わって、急に老け込んで、急に死んでしまった。終わりを渡しちゃったような気がして」と、苦い経験として胸に刺さっているようで、そう言えば、近年「ゲド戦記」にもノータッチだったのには、そういう部分もあったのかも、と。

ジブリの後継者にも頭を痛める今、ご自分も69才、期待かけて抜擢した新人が、その「耳をすませば」が運命の作品だった、という米林監督、というのは偶然にしても、そういうドラマもあったのでした。


8/13追記:そういう事も含めて、改めて長編アニメ映画監督の激務ぶり、が思われ、宮崎監督の、アニメーター達の全ての原画に目を通して修正を入れる、というスタイルを米林監督も採っていて、ジブリ以外の製作現場では必ずしもそうなのか判りませんが、とにかく自分自身が、技術者的にずば抜けたアニメーターである必要、も改めて。

深刻な製作遅れの中、「カット飛び」のミス発覚、ポッドとアリエッティが床下から上へ行く途中、ハシゴを昇る時に、瞬間移動しているような場面の飛び方、という所で、

確かにそこだけ数回ピックアップされているのを見ると、やや不自然な気はしますが、流れの中で、そうとりたてて気になるだろうか、という感じでも、やはり放置は出来ない初歩的ミス、として、米林監督自らカットを描いて挿入、ことなきを得たのでしたが、

その時同監督が、こなれた鉛筆さばきで素早く、はしごを登って行くアリエッティの動作を描いていく様子。通常のアニメーターなら動作の分析だけで3日はかかるらしい所を、6時間で仕上げ、現場の危機を救った、一職人としての腕発揮の集中力、も印象的でした。

実写の監督と違って、いざという時には、技術的には、自らの手で直接手を加えられる、という+面、でもある代わり、膨大な1枚1枚のカットがそのまま自分にのしかかるボリュームの重さ、というのも想像を絶するような、と。

実写作品とは、その性質も違って、監督の労力も比較出来ないかもしれませんが、宮崎監督も、前の特集で、実質体力的な限界について語り、長編は「・・ポニョ」で最後、と仄めかしていて、基本的に手描きスタイル、というのも原因としても、思えば高齢のアニメ監督というのは余り思い当たらなかったり。


米林監督は、年明けに手に発疹も出来ていて、痛いです、と苦笑い、その時薬指の指輪が目に入って、今回特に私生活ルポはなかったですが、既婚者だというのは判りました。鈴木氏に呼び出され、その発疹を労わられながらも、

進行的には、大事な所とそうでない所で、メリハリをつけないと(とても間に合わない)、と忠告されたり、宮崎監督はあえて傍観姿勢でも、やはり鈴木氏からは、途中の試写でも、庭の風景の微妙な出来に、「これで完成なの?」との声あったり、節々に、チェックはあるようで、社の数十億円かけたという新作で、当然と言えばそうかもしれないですが、

やはりジブリという、宮崎・鈴木という大御所のいる組織の中での創作、また、それゆえこういう密着取材を受ける、という、ある面、安心感ややり甲斐、の反面、やりにくさ、神経使う部分、プレッシャー等も偲ばれ、

それに潰れない、技量やメンタル的なタフさもいるようでしたが、米林監督は、今回そういう最初のハードルは、とにかく夢中で走ってきて気付いたらクリアしていた、という感なのかも、と。


宮崎監督は、「カット飛び」危機の時も、机に向かう米林監督の側を、うろつきつつも声はかけず、一番苦しい最終段階の時に、同じ様に近付いて行って、その、自分も馴染んできた”監督席”からの、窓からの景色の事を何気なく話しかけ、米林監督も短く答え、それが製作中は、今回映像に映った、唯一の2人の会話だったかと。
                                     (C)(株)岩波書店        
a0116217_171042100.jpg完成試写会で、一旦自分の真後ろの席に座った米林監督を、前の席に移るよう示唆、上映が始まって、じっと見入る宮崎監督の表情が、赤外線カメラかで映され、アリエッティと翔の、やかんでの旅立ち前の別れのシーンで、ナレーションの通り、頬を一筋の涙が伝っていて、

終了後、自分の前で挨拶する米林監督の手を取って上に掲げ、肩を叩きながら、本当によくやりました!と言うのが、脚本を練り上げ、様々な思いで我慢もしつつ距離を置いてきた、この作品と米林監督への、ゴールまで来た万感の思い、から滲み出た動作、というか。

その後久方に打ち解けて話して、翔とアリエッティの心情が、よく伝わってきた、と讃えていたのも、この作品の、大作ではないけれど素直なテイストと相まったような感触。

以前「プロフェッショナル」での特集の時には、同会場、だったかもしれませんが、「ゲド戦記」試写後、報道陣に「気持で映画を作っちゃいかん!」と吐き出すように呟き、その後「素直な作りで、良かった」というようにコメント、と聞いた覚えで、

実の息子監督、というスタンスもあって、比べてどう、という事ではないかも知れませんが、今回の方が率直な感慨、という感でした。


また、宮崎監督本人は、今回途中ナレーションで、自分で監督するのはあと1本、と思っている、旨のナレーションが入り、前の放映で、上記のような旨もあったし、それは長編ではないのかもしれませんが、とにかくまだ1本は宮崎作品が創られる気配、と。

それもまた、どういうものかと楽しみでもありますが、とにかく今回の特番は、タイムリーに「借りぐらし・・」の舞台裏一部の、こだわり・問題あったシーンや、新人米林監督の奮闘ぶりが具体的に見られ、なかなか充実感の後味でした。

今回放映当日の、少し前TV欄で気付いて録画セット、「借りぐらし・・」2回目に一緒に見たので、母にもこういう番組がある、と知らせておいたのですが、オンタイムで見て番組が終わった直後電話がかかってきて、シーンも記憶に新しかったし判り易かったようで、アニメ映画が1本出来るのに、本当に長い間色々大変な作業だなあ、と感嘆、という所で。

やはり宮崎・米林両監督の、それぞれの作品への思いや、直接の衝突場面こそありませんでしたが、1年3ヶ月程に渡っての、何とも言えない互いへの意識、圧迫、気遣い、等絡んだジブリ現場の様子も、ドキュメンタリー的に面白い、というか、見応えありました。


関連サイト:ジブリ創作のヒミツ 宮崎駿と新人監督 葛藤の400日「借りぐらしのアリエッティ」公式サイトamazon「床下の小人たち」amazon「野に出た小人たち」
関連記事:ハウルの動く城(’04)プロフェッショナル 宮崎駿スペシャルイバラード時間(’07)井上直久新作展ゲド戦記(’06)崖の上のポニョ(’08)プロフェッショナル 宮崎駿のすべて<1><2>スタジオジブリレイアウト展借りぐらしのアリエッティ(’10)借りぐらしのアリエッティ(’10)<2回目>The Borrowers(’52)/床下の小人たち(’69)野に出た小人たち(’76)川をくだる小人たち(’76)

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                    <パンフレット・ノート> 


by MIEKOMISSLIM | 2010-08-11 00:00 | 分類なし | Trackback | Comments(0)
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