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イルカと墜落 / 沢木耕太郎(’02)

先々週土曜、映画祭で行った阿佐谷図書館で発見の、未読だった沢木本「イルカと墜落」を一昨日読み終えました。沢木さんが、フランスのワールドカップ取材で知り合ったNHKのディレクターからの誘いで、アマゾン奥地に住むインディオの番組企画に参加、2度取材に行った時のルポ。

まず検索中、このタイトルが目に付き、取り合わせが?でしたが、「イルカ」は、最初の旅で、アマゾン川に生息する「ポト」というイルカの一種、「アマゾンカワイルカ」で、沢木さんは全身がピンク色の、そのオスに遭遇、というエピソード。

で、「墜落」は、2度目の時、沢木さんらが乗ったセスナ機が、エンジンの故障で、熱帯雨林の中の農場に墜落、という事故に遭遇、という自らの危機で、合わせてこのタイトル、だったのでした。


前半部で印象的だったのは、取材の対象だった、「イソラド」と呼ばれる、文明と接触なく暮らすインディオの人々と、そのインディオ対策機関のブラジル政府職員のポストロ氏。

ほぼ10年前のこの取材の時点で、数千とも数万人ともいた、という事実や、自分達の言葉や文化を持って暮らしてて、文明にも細菌にも抵抗力がないので、現代人と接することで、病気が広まって死んでしまい、前でクシャミをされるだけで、10人が死んでしまう事も、というデリケートさ、というのも驚き。

沢木さんらは、ポストロ氏への密着取材、同行、という手順で取材を進めるのですが、彼らにそのままの生活をさせる、白人を彼らの住む所へ行かせないことで、保護したい、という強い使命感。インディオが喜んだり笑ったり、という自然な状態にあることが、アマゾンにおける1つの美だし、自分自身の美だ、と。

当初、この人物のカリスマイメージを、「地獄の黙示録」のカーツと重ねていた部分もあった沢木さんが、彼と直に話をして、信頼感が芽生えてきた、と、いう流れ。

テクノロジー推進、土地開発、とは対極。偽善・売名行為とか自己満足とかという範疇にも当てはまらないような、スタンス。政府職員、という地位もあっての事で、世間にアピールする、それなりの機転の利かせ方、もあるのかも知れませんが、

世知辛い現代で、開発業者との摩擦とか、実質的に、自分に利益、追い風がある、とも考え難いスタンスに、信念を持つ生き方、というのも何か残るものが。

「イソラド」という、お伽噺的な存在と、その暮らしを守ろうとする、やはり、現代のお伽噺的な救世主ポストロ氏。そこに自然体で入って描写してみせる、やはり沢木目線、という地に足の着いたナビゲートの確かさ、のような感触も、という前半。


後半は、2度目の本格的取材、「墜落」までの、沢木さんの色々な予感・予兆めいたエピソードも織り込まれて、スパイス、というか。

その’01年出発前、沢木さんがその20年前飛行機事故で亡くなった向田邦子さんを忍ぶ会に招待され、結局参加したけれど、一度だけ面識あった後、「父の詫び状」文庫版の解説を依頼され、その最後の部分を書いている時に、ニュースで事故を知った、という縁で、

そういう縁の薄さと、20回余り飛行機を乗り継ぐブラジルへの旅の直前、という事で、参加をためらった、というのようなエピソードが始まり。


そして、出発日が日本時間で9月11日夜、台風の影響で1時間遅れで離陸、カナダ航空でバンクーバーに向かう途中、NYで9.11テロが発生、という遭遇。

予定のトロントには翌日の便で行けたものの、そこで1週間位足止めになったようで、交友あるらしい役所(広司)さんから、「沢木さんの行く所事件ありですね」というメールが届いてた、とか。

この本で、思いがけず、今まで目にした覚えなかった、ややクールな見方の、沢木目線での9.11、というのが少し書かれてたのも、印象的。

それとは別に、その少し前に、WTCにいた富士銀行の日本人幹部が、最後まで残って見届けるように、という社内マニュアルに従ったため行方不明になっている、というニュースが最も気になった話、として挙げて、

「我先に逃げて、誰かが死んだら、一生悔いることになるだろうから、そんなマニュアルに従わず、さっさと逃げたらよかったのに、とは思わない。もしそれが私であっても、最後まで残ろうとするだろうと思う。

マニュアルの問題ではなく、上に立つ、ということは、そういうことだという感じがあるからだ。普遍的でないにしろ、少なくとも日本人的な感覚として、それはある。」というような内容。

これが、沢木著でなかったら、やや立派で潔すぎ、そうは言っても、果たしていざそういう場面で、本当にそう振舞うんだろうか?と穿ったり、という気にもなりそうですが、何だか多分、ですが、この人は本当に、そうするかもしれない、と思えたり。


そして、1週間位かかってようやくブラジルに到着、ポストロ氏と合流、現地で乗ったセスナ機の、墜落事故。

まず飛行中、窓から燃料が漏れ出すのが見え、プロペラの片方が止まり、熱帯雨林がかなり近くに見えてきて、それでも、パニックな様子はなく、こういう事もあるのだろう、と、そう慌ててる風でもないのは、旅なれた沢木さんならでは、なのか、

セスナ機の構造が、墜落するにしても、スローな経過なのか、この事故の経過が、そういう風だったのか。

パイロットの指示で、一番後方にいた沢木さんが、機内の荷物を捨て続け、熱帯雨林がかなり近付いてくるのが見えて、さすがに、どうやら落ちるらしい、と悟ったようですが、

その時浮かんだのは、死への恐怖、とか家族への感謝、思いやりの言葉とかでなく、クルーの1人の口癖だった「マジかよ!」、マジで落ちるつもりなのかよ、だった、と。

でもそういう究極の所で取った行動も、沢木さんらしい、というのか。通訳の人がしたような、教科書通りの、頭を抱え低い姿勢になって背中を曲げる、というのが、前の席との距離からして、頭と首にダメージを受けそうで、そうはせず、

とっさに、座席の背もたれを抱え込んで、頬を強く押し当てた、こうすれば頭だけは守られる気がした、と。実際、教科書通りの行動より、怪我具合はどうだったのか?ですが、とっさに自分の直感を信じての行動、というのも、資質なのかもしれない、と。

どうも文面だと、そのまま直に墜落、というより不時着、という印象ですが、衝撃はそれなりに大きかったようで、胴体が真ん中から折れたようですが、乗客、パイロット共、顔や手に血を滲ませてはいても皆無事。このような墜落で、死人が出なかったのは奇跡的、と報道された、と。

農場に、でなく、熱帯雨林に落ちてたら、炎上して、もっと惨事になったかもしれず、沢木さんの訃報、という事にもなってたのかも、と思うと、沢木さんが、後に死はただそこにあった、という感じ、というのも何だか分かるような、とも。

そこで、救助に来たのが、救急車でも警察でもなく、地元の農夫達で、トラクターで運ばれ、町で救急車に乗り換えさせられ、かなりラフな無料の公共の病院に運ばれて、検査、軽い治療を受ける、というくだりも、かなりのアバウトさ。

沢木さんはどうも乗っていた5人中では、搭乗以降の記憶も繋がらない、という通訳の人と同じ位重症で、事故後胸や背中に痛みが残ったようで、NHK要請でクルーは帰国、取材中断、という形になったようで、その後、体の具合にもよるけれど、夏に予定の3度目のアマゾン行に参加するつもり、とあるのですが、

その後この企画はどうなったのか、少なくとも、この関連の沢木本は出てないようで、番組企画自体中止になったのか、番組にはなったけれど、沢木さんは参加しなかったのか?不明。当時、日本でもこの事故の報道も多少なりともあったかと思うのですが、どうも目にした覚えなく。

そういう波乱の後半、だったのですが、もう1つ、象徴的に挙げてたのが、前半の最後、沢木さんが船尾から船首に飛ぶのを見かけた、光の粒のようなもの。

船のクルーはそれを、「カーガ・ファーゴ」、糞(カーが)を火(ファーゴ)のように発光させながら飛ぶ虫じゃないか、と言ってて、その時は、何かの予兆でもなければ怪奇現象でもなかった、と納得してたのですが、

再度後半の最後に、その事を回想、あれは(飛行機事故で)私の消えようとしていた私の「命」だったのではないか、でも、何かの力によって、奇跡的に生命の波動を取り戻した・・。でもすぐに、打ち消して、何かの力など借りはしなかった。私は偶然飛行機事故に遭って、偶然に助かった、それ以上でもそれ以下でもない。

という所が、この人の記憶力や神経の細やかさ、かつ、現実的な、らしい、という締め方、だと。


あと印象的だったのは、枝葉的な所ですが、沢木さん文での、食事。

ブラジルのヴァリグ航空での、ある時の機内食が、チーズとハムが載った厚手のワッフル、食べ易いようにきれいに切って盛られたパパイヤとオレンジ、パイナップルが薄くスライスされて載ってるスポンジケーキのデザートなど、これまでにないおいしさだった、とか、

事故機に乗った現地の、リオ・ブランコという街のホテルで、ボーイが好意で持ってきてくれた朝食、パン、バター、カフェオレ、ジュースや、パパイヤ、スイカ、バナナの果物が皿に綺麗に載った皿、というのが、簡素だが充実したメニューだった、というような描写。

「深夜特急」でも、旅を終える決意をする、ポルトガルの果ての岬のペンション、海に面したテラスでの、パンとジャムとバター、コーヒー、という朝食が、とても豊かに思えた、という覚えがあって、

見直してみると、「これ以上簡単な朝食もなかったが、私にはこれ以上豪華な朝食もまたないように思えた。」とあったのでしたが、

豪勢な旅行、でなくいわゆるエコノミー旅、の中の描写、だからか、そういう素朴な品揃えの食事の豊かな美味しそうさ、というのが今回も。


そういう所で、前半の、本来の「イソラド」取材、アマゾン紀行から、思わぬアクシデントの後半。ちょっと異色な展開でしたが、9.11も絡んだり、まさに実録”墜落記”になったり、ルポならでは、という臨場感、それもやはり沢木語り口味わい、の1冊、という所でした。

関連サイト:Amazon 「イルカと墜落 / 沢木耕太郎」
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by MIEKOMISSLIM | 2011-08-23 19:30 | | Trackback | Comments(0)
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