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トスカーナの贋作(’10)

先日「ナイト・オン・ザ・プラネット」を図書館の映画会で見て、同じくタクシー舞台のキアロスタミ作品「10話」を連想したのもあって、新たなキアロスタミ作品が未見だった、と思い出してDVDで見終えました。

同監督作は、私は昨年秋やはり図書館で「友だちのうちはどこ?」を、久し振りに見直したたのが最新。この「トスカーナ・・」は、イタリアで撮影の伊・仏共同作品、俳優陣も、ジュリエット・ビノシュをヒロインに抜擢、

イラン以外での、またグローバルに著名俳優起用のキアロスタミ作品、というのは初めて。
                                 (C)(株)パイオニアLDC
a0116217_1502252.jpg冒頭、英国人作家ジェームズ(ウィリアム・シメル)による著作のテーマ、”贋作”についての講演、から始まって、彼とイタリアで画廊を経営するフランス人女性(ビノシュ)との間の、さり気ない会話の中の芸術論、とか、知的モードから、いつの間にか展開する擬似夫婦~ロマンスモード。

同監督作の恋愛もの、と言えば、マイベストキアロスタミ作品に挙げてた「オリーブの林をぬけて」があったけれど、あれは一方的に青年が思慕を抱いて少女を追う、という展開で、純愛、ではあるけれど、ちょっとメルヘン的な印象もあって、

今回のように、こういう大人同士が向き合って、というラブストーリーも、思えば初めて。


後味は、まあ微妙。その日初めて会った男女が、カフェで夫婦に間違われたのをきっかけに、本来互いの配偶者とするべき議論、率直な愚痴、互いの感覚の違いの主張、理解を示そうとしたり、許したりというやり取りを真剣に展開、

これまで素人を多く起用したり、自ら地震現場に赴く様子を作品にしたり、虚構の中に”現実”を取り入れてた作風、からしたら、今回は、虚構の中に”登場人物達の現実の心情”を取り入れた、という所なのか、

本来向かい合うべきそれぞれの長年の配偶者、でなく、会ったばかり相手にそういう心情を吐露、喧嘩したり、仄かな切なさはあるけれど、虚偽、「贋作」の愛、関わり、というか。


名も出なかったヒロインには息子(アドリアン・モア)がいて、夫は登場しなかったけれど、彼女の話からしたら、結婚15年、多分未亡人やシングルマザーでなく、劇中での科白のように、多忙で留守がちな夫の妻、のようで、

ジェームズの方も、家族構成は全く不明だけれど、彼女の愚痴への対応、夫としての言い分、などからして、自身多忙で留守がちな夫、またはかつてそういう夫だった、ようで。

互いの配偶者とは話題にしにくいかもしれない、芸術的な部分含めて、率直に話が出来たり、というような部分も、2人を仮夫婦モードにさせた一面かもしれないけれど、やはりそういう”かりそめの親密さ”への傾斜度は、女性の方が強く、男性は一時の交流、で終えようとする感触。

ラストは、その後ジェームズがどうするのか?曖昧。でも何だかやはり、その後どうなるにしても、所詮不倫話、と言ってしまうには、2人の背景とか状況も漠然としてて、中年期の大人が抱える孤独の哀愁もあったけれど、そう真摯な心に染みるラブストーリー、とも感じられず。


ジェームズが、贋作擁護論で、本物の絵、と言っても所詮はモデルの美女の複製じゃないか、真の本物は彼女だ、のようなことを言ってたのが、ちょっと頭に残ってるけれど、

本物の絵と贋作の差、というのは、どれだけその画家が自分なりに、モデルの姿や風景をキャンバスに描こうとしたのか、何を描き取ろうとしたのか、という情熱、対象と真摯に向き合った時間の積み重ね、ではないかと思ったりするし、

いくら見た目精巧な贋作でも、そういう作品自体が持つ重み、という点については本物にかなわないのでは、と。

でもジェームズはそういう贋作擁護者、だからこそ、私生活でも、苦楽の時間を共に重ねたはずの、妻以外の女性とその場で仮夫婦モードにもなってしまえる、という単純な図式だけではないかもしれない、インテリで、愛情の示し方に不器用な部分もあるかもしれないけれど、余り彼に好感は持てず。

このジェームズ役のウィリアム・シメルは、これが映画初出演のオペラ歌手、だそうだけれど、第一印象は、ビノシュが「綴り字のシーズン」で共演してた、リチャード・ギアのような髪形、

それはさておき、+目鼻立ちが、先日終わった昼ドラ「鈴子の恋」で不倫沙汰、浮気を繰り返してた柳枝役、神保悟志に似てる、と思ったのも一因かも。


そもそも、確かにカフェで女主人に夫婦と間違われて、というシーンはあったけれど、その後店を出た彼らが仮夫婦モードに突入したのが、どうも唐突?に思えたのだけれど、

特典映像のメイキングの中で、ビノシュがストーリーのターニングポイント、としてそのカフェで、彼女が携帯電話を終えて戻ってきた彼に、間違われた旨を告げ、彼の仮夫婦モードへの曖昧な反応に、激しく動揺を見せた、というシーンを挙げて、

後で見て、その部分がカットされてたのにも驚いた、と述べてて、そういうシーンを補ってみたら、彼女が垣間見せた内面の欲求に、少しテンポが遅れて彼が応じた、という流れに納得。

そういう要の判り易い部分をあえて省いたのも、キアロスタミ方式かとも思ったけれど、まず擬似夫婦モードを求めたのは彼女、ジェームズがそれに応じていった、という形、だったと。


やはり特典映像の一昨年の東京フィルメックスでの同監督と観客との質疑応答で、男性からの質問が相次ぎ、同監督がおっとりと女性からの質問を希望、司会者が当てた着物の女性が、来場してた映画スクリプター野上照代さんで、

質問、というより、この作品への賛美や、同監督が女性をこういう風に複雑に描く人とは思ってなかった、のようなコメント。

それに対する同監督の、笑いを誘ってた反応答コメントは通訳の人の声が聞き取れず?だったけれど、思えば同監督作品で、そういう内面含めた大人の女性描写、を見たのも初。

メイキングで、そもそもこの作品は、キアロスタミ監督がビノシュを自宅に招いた時にした、自分の体験に基づいた話で、話し終えてから、映画に似合う話、と思ってビノシュを念頭に脚本に取り掛かった、そうで、

俳優に合わせて科白も変えていく独特な撮影の仕方の中で、彼女のキャリア、資質を見込んで、そういう女性描写を委ねた、という部分も結構あったのでは、と。

正直この女性の心情には寄り添い難かったけれど、ビノシュは、自分の中の”素”の部分含めいつになく伸び伸び演じてるようでもあり、キアロスタミ作品でのビノシュって、こんな感じなんだ、と、そういう意味では見応え感。

変化の多い進行に、彼女は、相手がウィリアムだからこそ出来た、とも語っていて、そういう面では、演技経験の全くなかった彼だからこその、キアロスタミ方式での適性、というのもあったのかも。

2人の会話は英語とフランス語混じり、どうも感情が高まる所はフランス語になる傾向な気もしたけれど、2人は、それに+イタリア語科白もこなしてて、思えば西欧の言語飛び交う初のキアロスタミ作品、でもあったり。


あと、2人がトスカーナの郊外へ車で出掛ける道のシーンはそう長くなく、カーブがあっても緩やか、そう曲がりくねってもおらず、やはりこれは「ジグザグ4部作」目、とも言えないかもしれないけれど、糸杉がポツポツと両側に立ち並び、イラン郊外も彷彿するような美しい田園風景。

メイン舞台のルチニャーノもこじんまりした街で、石畳の道、庭、シックなカフェ、やはり地元の人を使ったらしい街でのシーンとか、そういう背景のキアロスタミ作品色、というのはイランを離れても漂ってた感じ。


4/18追記:東京フィルメックス映像で、同監督は、イタリアでの現地人スタッフとの仕事、地元の協力、撮影の好感触、日本人観客について、繊細さ、他国でのように携帯をいじりながらの鑑賞は見受けられなかった礼儀の良さ、など褒めてたり、

日本での製作意向について尋ねられて、友人のアミール・ナデリ監督が日本での作品の撮影を終え、その話を聞いて、自分も出来そうな気がした、ような旨を回答。

イラン人監督による日本舞台作品、というのは初耳で、これは昨年末公開になってた西島秀俊や常盤貴子らが出演の「CUT」というナデリ作品のことだったようで、キアロスタミ監督も、すでに昨年、日本での新作を撮り終えてた、というニュースを先程発見してちょっと驚き。

「Like Someone In Love(ライク・サムワン・イン・ラブ)」という作品で、60代のインテリi老紳士と女子大生の年の差40才のラブストーリー、老紳士は一般公募で選ばれて、ヒロインは初耳女優だけれど高橋臨、その他加瀬亮、奥野匡、でんでんなど出演、

この夏公開予定、とのことで、またしても男性側はインテリタイプのようで、私はやはり明らかな不倫ものでないことを願いたいけれど、これはちょっと注目。


そういう所で、後味は微妙でしたけれど、キアロスタミ作品として、初のイラン以外他国でイタリア舞台、英・フランス・イタリア語飛び交う、また初の大人のラブストーリー、

ストーリーに余白を残す部分、こじんまりした街の背景とか、これまでの風味漂っている部分あって、特にメジャー女優ビノシュとのコラボの妙、という見応え感は残った感じでした。

関連サイト:Amazon 「トスカーナの贋作」エキサイトニュース 巨匠アッバス・キアロスタミ監督が日本で撮影した新作、ネットで一般に製作費募り撮影現場に招待象のロケット 「トスカーナの贋作」
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by MIEKOMISSLIM | 2012-04-17 23:59 | 洋画 | Trackback(5) | Comments(0)
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タイトル : トスカーナの贋作
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Tracked from とりあえず、コメントです at 2012-04-21 17:08
タイトル : トスカーナの贋作
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Tracked from ヨーロッパ映画を観よう! at 2012-04-21 19:27
タイトル : 「トスカーナの贋作」
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Tracked from 映画の話でコーヒーブレイク at 2012-04-24 23:56
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「KYOKO」は’02年に映画掲示板にスレッドを立てた村上龍監督、高岡早紀主演映画で、当ブログはそのスレッド、次のブログに続いての3代目です。マイペースで、長年ファンのユーミン関連初め音楽、美術展、仕事、グルメ(食事)、映画、本、日常、旅のことなどアップしてます。


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