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NHKスペシャル 沢木耕太郎 推理ドキュメント運命の一枚~"戦場"写真 最大の謎に挑む~

3日(日)夜、NHKスペシャルで、沢木さんが、以前2冊の伝記の翻訳も手掛けてた戦場カメラマンロバート・キャパの代表的な1枚、ヤラセ疑惑なども取り沙汰されてきた「崩れ落ちる兵士」の謎に挑むドキュメンタリー、オンタイムで見ました。

その伝記「キャパ その青春」「キャパ その死」は当時単行本を入手してたり、確か新宿の三越にあった美術館での、’97年キャパ展「CAPA's LIFE」に行ったことがあって、玄関脇には相変わらず、その時買ったキャパ大判パスターパネルを置いているし、

5年前、キャパの弟コーネル・キャパの訃報があった時、ブログでも回顧してたのだったけれど、この番組はたまたま前日NHKを点けてた時に予告で知って、興味持った内容。


沢木さんが実際、「崩れ落ちる兵士」が撮られたスペインの当地に出向いて、人々の話を聞いたり、近年、キャパの遺産を管理する団体に発表されてきた、同時期に同じ場所で撮られた43枚の写真群と照合、

CGなど最新技術も駆使してこの写真を分析の結果、これは'実際のスペイン戦争の戦闘中でなく、訓練中で、この兵士は撃たれてはおらず、前進中斜面に足をとられてバランスを崩して倒れている瞬間で、

しかも実際撮ったのでは、キャパではなく、同行していた恋人だった女性カメラマン、ゲルダ・タローだった可能性(が高い)、という、やや驚きの結論。その真偽はさておき、期待にたがわずなかなか面白い、というか見応えの内容。

                                 (C)(株)文藝春秋
a0116217_2356262.jpgちょっと「キャパ その青春」の、その肝心の「崩れ落ちる兵士」の所を見直そうと思って、本置き場を探したけれど、「・・ その死」はすぐ見つかっても、「・・ その青春」がどうも見当たらず。

ちょっと気にはなるし、近隣の図書館に在庫あったので、それを借りてきてチェック。ああ、こういう表紙だった、と思い出して、間違って雑誌などと共に処分してない限り、どこかにあるはずだけれど、と思いつつ。

番組では、キャパはこの写真についてほとんど語ってない、ということだったけれど、本ではキャパ自身が、写真を撮った1年後の'37年、NYでのインタビューで、撮った時の結構詳細な説明をしてて、それによると、

>コルドバ戦線にいて、2人とも立ち往生していた。キャパは大事なカメラを持ち、兵士はライフルを持っていた。兵士は落ち着きがなかった。彼は共和軍の陣地に戻りたがっていた。何度も何度も砂嚢をよじのぼり、かなたを透かし見た。

そのたびに、機関銃の掃射を浴び、転げるように降りてきた。ついに兵士は一か八かやってみるつもりだという意味のことを呟いた。兵士はキャパを伴って壕から這い出た。

機関銃が火を吹いた。キャパは相棒の兵士の体の傍で仰向けに倒れながら、本能的にシャッターを切っていた。

二時間後、外が暗くなり、銃が鳴りやんだとき、カメラマンは安全なところまで荒れた土地の上を這って前進した。のちに、彼はスペイン戦争の戦闘写真の中でも、もっとも素晴らしい何枚かのうちの1枚を撮ったことを知った。<

という核心の箇所。


もしこの通りなら、番組でのように、彼はゲルダと訓練中の写真を撮ってた、のでなく、やはり実際の戦闘中、しかも単独で撮ってた、という状況だし、

自身ユダヤ人という身で、番組であったようにいくらこの1枚が思いがけず、当時のナチスの圧迫への抵抗、という強い意味合いを持つまでに湯名になった、という事情、

また、当時無名だったキャパの、世に認められたい欲、があったとしても、自分の人生の生業だった写真、について、

まして自分でなく、そのインタビューの2ヶ月前戦場で亡くなったばかりの恋人、が撮ったのだった写真、だったとして、それについて、全くこういうでっち上げの証言をする、出来るものなのか?というのが、私の思う、沢木さんの結論への一番大きな疑問。


もう1つの疑問は番組中、「崩れ落ちる兵士」の直前に撮られたのでは、という、この兵士がメインの別の兵士の後ろにわずかに見える写真との照合で、

それを撮ったのがキャパで、その直後に傍にいたゲルダが「崩れ落ちる兵士」を撮ったのでは、ということだけれど、

CGだと、その直前の写真では、問題の兵士は大きく体勢を崩して、後方にほぼ座り込むほどに低い重心の体勢、そのまま地面に尻餅をつく、というのが、自然な感じ。

そこから、次の瞬間「崩れ落ちる兵士」の、後方に倒れるにしても、やや伸び上がったような体勢が取れるものなのか?という素朴な疑問。


2/7追記:また、これほど有名な写真の被写体である男性が、その写真が撮られた'36年9月5日に実際死亡してるのか否か?というのは、史実として判ってないのか?と思ったのだけれど、

キャパ展でのカタログのこの写真の欄の解説に、この青年はフェデリコ・ボレル・ガルシアという名と伝えられてる旨あって、

Wikipediaのその青年の欄だと、確かにその日に当地の丘で17時頃射殺され、その兄弟がキャパの写真で確認、という旨載ってるけれど、続いて、

>また、ボレルがキャパのためにポーズを取っている時に、反乱軍に撃たれた可能性があるか、この写真はキャパによる捏造で、ボレルは写真の人物ではないとする別の見解による主張がある。

「La sombra del iceberg」というドキュメンタリーは、この写真はやらせで、ボレルは写真の人物ではないと主張している。ボレルの死亡証明書は存在しない。スペイン政府による公式な死亡証明書は、ボレルの姓名では発行されていない。<

などともあって、まあ戦時中の混乱もあってか、今一はっきりしない、という所。


「キャパ その青春」の著者リチャード・ウィーランも、この写真の章で、同時期同じ場所で撮られた他の写真との照合で、疑念を投げかけてはいるけれど、

>確かなことは、我々がその丘で起きたことを正確に知ることはたぶんないだろう、ということだけだ。<

として、事の真偽がどうであれ、この写真の持つ大きな価値を讃えている文面。


でも、この本の最後の「原注、訳注、雑記」のこの写真の欄で、沢木さんは、この本が出版された'88年の時点で、この写真への疑念をはっきり表してて、

>・・「崩れ落ちる兵士」の写真について、ウィーランはいいところまで追いつめながら、結論を留保する形で逃げてしまっている。明らかに遺族、とりわけ弟のコーデル・キャパに対する遠慮があったのではないかと思われるが、

彼の立論を素直に推し進めていくと、あの写真は本物ではなく演じられたものではなかったか、という結論に達していくように思われる。<とか、

a0116217_17225294.jpg一兵士として戦争経験を持つ大岡昇平氏に、多分カタログの「崩れ落ちる兵士」と同じページに載ってるもの(←「セロ・ムリアーノ近郊 コルドバ前線」 (C)東京富士美術館)ではないかと思うけれど、

ガルシアらしき青年を含む3人の兵士が銃をかまえてる写真を見せた所、同氏は、あっさり、これは演習をしてるところだろ、と答え、こんなんで戦闘してるはずがない、

もし敵が正面にいるなら、こういう風に銃口は水平になるが、このように壕のような所から身を乗り出すはずがない、身を乗り出すのは敵が斜め下にいるからだろうが、それなら銃口が斜め下を向いていなければおかしいではないか、と、沢木さんに説明、という箇所があったり。

前述のキャパ自身のよるこの写真の詳細説明部分なども含め、翻訳、という形でキャパの活動検証記録に綿密に関わってきた、

その上でも、沢木さんにとっては、この時点では、キャパが撮った演じられた写真ではないか?という趣旨だったけれど、25年来の”疑惑濃い1枚”だったのだ、と改めて。


2/9追記:昨夜録画で、番組の一部確かめようとしたのだけれど、どうも録画したテープに異変、巻き戻し、早送りとも効かず、出来るのは番組録画の後の部分の関係ない所の再生のみ、デッキからの取り出しも何度か試みてやっと、という状態。

無理に見ようとして、また取り出せなくなってデッキごと修理に出す羽目になっても、と見送り。再放送も、その前夜だったようで、またあるのかは不明だし、ちょっと残念。

まあ、オンタイムで見た時のを思い出しつつ+やや詳細な番組内容サイトがあったので、それ参照で。


番組中、疑惑の裏付けとして、信憑性を感じたのは、問題の写真が発表されたのは9月23日で、戦争史研究家によれば、それ以前にその当地の丘での戦闘は一切なかった、との証言や、

また、専門家の分析で、43枚に映ってる銃には、すぐに発射できない様式のものがちらほらある、などのことから、やはり沢木さんが以前、大岡昇平氏から言われたように、一連の写真は、訓練中のもの、という可能性が現実味を帯びてくるような。


それと、撮影の核心の瞬間、前述の「崩れ落ちる兵士」と、その直前の写真、について、わずかな背景の山の稜線の違い、また少しだけその写真に銃先が映ってる別の兵士の走る速度を想定、そこから割り出したのが、

2枚は、1.2m離れた場所で、0.86秒差で撮られた、という状況で、1人がその2枚を撮るのは物理的に無理、ということ。

また、キャパが普段、写真の縦横比率が横長のライカ、ゲルダが1:1になるローライフレックス、というカメラを使ってて、「崩れ落ちる兵士」は、横長にはなってるけれど、ライカで撮ったとしたら、上下が5mm足りないはず、という検証、

で、沢木さんは、キャパが先の写真を撮った直後に、ゲルダがローライレックスで「崩れ落ちる兵士」を撮ったのではないか、という結論に達した、という辺り。

前述のように、問題の2枚での兵士の体勢の変化には私はやや不自然さ?を思うし、カメラの専門的なことは?だけれど、素人目にも、比較的判り易い解説。


思えばこの写真は、兵士が撃たれた、という事実を示す、身体への銃痕、飛び散る血、などもなく、ただまさに大地に倒れこむ兵士の、なすすべもない姿、によって、敵の銃弾に倒れた共和軍の兵士、ということでインパクトな1枚、になってたのだけれど、

これが、単に、訓練中に足元を取られ”転んでいく兵士”、しかもキャパ本人でないカメラマンによって撮られた写真、だったとして、

何というか正直、この写真自体の持つ芸術性云々、はさておき、生粋の”報道写真”として、笑ってしまうような肩透かし感、は拭えない感じ。


また、この撮影者が実際はゲルダ、という件については、色んな側面、というのも思えてきたり。

彼女はキャパより3才年上、「キャパ その青春」のよると、割とキャパに対してアドバイスをしたり、仕事の手助けをしたり、という世話女房的な存在、その代わり彼女にカメラの使い方を教えたのはキャパ、という関係だったようで、

たまたまそのゲルダの撮った1枚が、彼女が戦場で戦車に轢かれ亡くなって程なく脚光を浴びて、その撮影者としてキャパを有名にした、死の前に、結果的に彼が成功するお膳立てをしていた、というのも、運命のアヤ、的。

「キャパ その青春」によると、彼女の死後、キャパは深い悲しみに打ちひしがれ、会う人ごとに、彼女の写真を配って、事故の時には一緒にいた、という、事実とは違う、現実がそうであったら、という虚言発言をしてた、というようなエピソードも。

そういう所からして、前述の、私がどうも引っ掛かった、この本でのキャパの、時期的に彼女の死後2ヵ月後、NYでのインタビューでの、「崩れゆく兵士」を撮った時の詳細についてのコメントも、

それがあえてでっち上げた嘘、としたら、その写真自体が世間に対して持った、強い反ナチスニュアンス、という事情、もあるかもしれないけれど、

キャパ個人的には、実際それを撮った自分の恋人だったカメラマンは、もはやこの世にいないのだから、自分の名声のため、自分が撮った、というスタンスで押し通そう、という邪まな我欲、というよりは、

ゲルダの作品=自分の作品、という一心同体感、を踏まえて、ゲルダがたまたま映したこの写真を、実際自分が、撮ったのだったら、また、実際、転んでいる場面、でなく、撃たれてしまった衝撃の瞬間の写真だったら、という、

やはり現実がそうであったら、という強い願いで、別の実際の体験を語ったのか、作り上げたのか、いずれにしても”余り罪の意識ない(薄い)虚言”、というニュアンスだったのでは、という印象の方がどちらかと言えば強く、

その時点でのイノセント感が、世間にもそれとなく伝わって、彼自身も、沢木さんが言う「背負った十字架」によって、アグレッシブな撮影姿勢へと駆り立てて、

これ程の、世間を欺く”疑惑の1枚”の後も、彼を名だたる戦場カメラマン、に押し上げたのではないか、というような印象。

                                          
a0116217_2044734.jpg私は、やや記憶曖昧だけれど、キャパは確か、この2冊の沢木さん翻訳本、で知ったのだったと思うし、

その展示会など見て、単純に、戦場での撮影にひるまないその勇敢さ、イングリッド・バーグマンとの一時期の恋愛関係、ピカソやゲーリー・クーパーなど幅広い交友関係を持つ柔軟な人間性、

戦闘シーンだけでなく、そういう有名人達や、市井の人々の人生のふとした断片を切取ったような写真、というのも好ましい、というイメージだったカメラマン。(↑「ロンドン、イギリス 1943年 1~2月」カード)


                                   (C)(株)文藝春秋
a0116217_1959036.jpg今回やはり、2冊の自伝翻訳など、キャパに結構関わってきて、

また自らも「天涯」など写真集も出してて、という背景ある沢木さんの、ルポライター魂、長年に渡っての謎への執念、というか、現地での、綿密な検証ぶり。

本ではそういう様子が活字で読めても、映像では、「深夜特急」ドラマ化で大沢たかおが沢木さん役で旅、というのはあったけれど、こういう風に、この人の実際の取材ぶりのドキュメンタリー、というのは思えば初見。

77年前の戦時中の実際の事の真相さておき、地道なプロセスを元に、この写真が”虚偽の1枚”であった、という検証、

そこから、その作品で有名になった(なってしまった)キャパ、というカメラマンの、その後の危険を顧みなかった姿勢、を線で繋ぐ、やはりさすが沢木目線の鋭い妙、という所で、

今回のトピックでの「キャパの十字架」という沢木さんの文章が今年1月号の文藝春秋に掲載され、沢木新作として今月17日に発刊されるようで、これもいつになるか?ですけれど、読むのが楽しみです。

関連サイト:NHKスペシャル 沢木耕太郎 推理ドキュメント運命の一枚~"戦場"写真 最大の謎に挑む~Amazon 「キャパ その青春/ リチャード・ウィーラン 沢木耕太郎訳」 Wikipedia フェデリコ・ボレル・ガルシア崩れ落ちる兵士とはーgoo Wikipedia
関連記事:ロバート・キャパ世界は「使わなかった」人生であふれてる(’02)血の味(’00)「愛」という名を口にできなかった二人のために(’07)銀の街から(’07、12月)(’08、1月)(’08,2月)(’08、3月)(’08、4月)(’08,5月)(’08、6月)(’08、7月)(’08、8月)(’08、9月)(’08、10月)(’08、11月)(’08、12月)(’09、1月)(’09、2月)旅する力 深夜特急ノート/沢木耕太郎(’08)人の砂漠(’77)映画化人の砂漠(’10)あなたがいる場所/沢木耕太郎(’11)イルカと墜落/沢木耕太郎(’02)一号線を北上せよ/沢木耕太郎(’03)ポーカー・フェース 沢木耕太郎(’11)LIFE 井上陽水~40年を語る~<1><2>SONGS 財津和夫<1>/井上陽水<1>~<4>

(C)東京富士美術館
a0116217_22521024.jpg

           <キャパ展「CAPA's LIFE」カタログ>


by MIEKOMISSLIM | 2013-02-06 23:49 | 芸術 | Trackback | Comments(2)
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Commented by desire_san at 2013-02-08 06:39
私もNHKスペシャル「沢木耕太郎 キャパの十字架」をみましたので、興味深く読ませていただきました。
私はロバート・キャパの写真に魅力を感じていましたので、「崩れ落ちる兵士」は実際撮ったのはゲルダ・タローだったという話は少なからず衝撃を受けました。
しかし番組を通しロバート・キャパについて理解が深まって良かったと思いました。

私もブログにロバート・キャパに自分なりにまとめてみました。
よろしかった、ブログにご意見、ご感想などコメントしてくださると感謝致します。

Commented by MIEKOMISSLIM at 2013-02-09 23:54
desire_sanさん、やはり有名なあの写真が、ただ兵士が訓練中に躓いて倒れている瞬間、しかも撮ったのはキャパ本人でなくゲルダだった、というのは、意外な展開ですね。

記事途中でコメント頂いてましたけれど、上記のように、沢木翻訳のキャパ伝記「キャパ その青春」の内容と比べて、また番組中のCG検証でも、やや疑問感じる部分はありましたけれど、なかなか見応えの内容でした。

ちなみに「キャパの十字架」は番組タイトルでなく、今年1月号の文藝春秋に掲載された文章名、また今月17日発刊の沢木新刊名です。
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「KYOKO」は’02年に映画掲示板にスレッドを立てた村上龍監督、高岡早紀主演映画で、当ブログはそのスレッド、次のブログに続いての3代目です。マイペースで、長年ファンのユーミン関連初め音楽、美術展、仕事、グルメ(食事)、映画、本、日常、旅のことなどアップしてます。


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